第22話 シモンズとメイファ
エイデン隊とのバッティング事件の後シモンズは非番の日にアポロン発のシャトルに乗ってアルテミスへ向かった。連絡役と打ち合わせをするためである。
連絡役のマイキーとは彼の住居近くのレストコーナーで会うことになっていた。レストコーナーはいつも人であふれていた。マイキーはレストコーナーの端の方に座っていた。マイキーはシモンズよりも年長で間もなく40歳を迎える。
「おまたせしました。」
マイキーはシモンズの声に反応したのか振り向きもせずに少し左に寄ってベンチに隙間を開けた。
シモンズもベンチに腰掛けるとマイキーが口を開いた。
「クレス隊の案件数については今のところ何ら指摘はない。だが、もっと数を増やすようにと言っていたよ。」
「わかりました。クレス隊の状況ですがクレスは実務への参加を減らしつつあります。」
マイキーはショルダーバッグから親指大の装置を取り出してシモンズに渡した。
「新しい無線機だ。前のは破棄しとくようにとのことだ。」
前の無線機よりさらに小さい。
「他になければこれで。」
シモンズがそう言ってベンチから立ち上がろうとしたがそこでマイキーが追加で何か話した。
「明後日の襲撃はナイツ隊に通報してはいけない。」
そう、言い放つとマイキーはさっさとその場から立ち去った。
アルテミスでの連絡役との打ち合わせは3ヶ月に一回程度の頻度であるがシモンズにとっては数少ない楽しみの時でもあった。
アルテミスの飲食街では地球から輸入された食材で作った料理が食べられる。それと飲食街にはバーも数多くある。シモンズはそのバーの一つにお気に入りの女性が居るのである。
彼女の名前はアリッサ・ケイン。彼女もシモンズには好意を持っているようだ。
今日のアリッサは少し不機嫌そうであった。
「何でそんなに不機嫌な顔をしている。」
少し考えて話しを始めた。
「あなたが何も教えてくれないからです。」
彼女はそう言いながらシモンズのお気に入りのお酒を作った。
彼が彼女に何も話をしなかったのは自らの仕事のやりざまに誇りを持てなかったからである。
そして拠点がアポロンであることも彼女には話していなかった。
「どうにかしないとな。」シモンズはウィスキーの水割りを飲みながら呟いた。
休暇を終えてアポロンの住居に戻ったシモンズは次の日早速当直当番に当っていた。その日はシモンズ一人。深夜4時過ぎだろうか。アラートが鳴った。襲撃は第32番倉庫。かなり離れた所だ。彼はそのアラートを無視する作業を行わなかった。通常の手順でメンバーに情報を送り彼は第32番倉庫に向かった。賊はどうやら複数居るようだ。賊の方が人数が多い場合は他のメンバーを待つ決まりになっている。その後賊の人数は2人と判明した。やがて、現場にメイファが、続いてカーンが到着した。クレスからの指示により、賊の捕獲は皆が揃ってからになった。捕獲はあっという間に終わった。解散して当直に戻り仮眠室に戻った途端次のアラートが鳴った。しかしそれをシモンズは切ってナイツに連絡をした。
「シモンズ。」
誰も居ないと思っていたシモンズはあまりにも驚いて転倒してしまった。
気を取り直して見上げるとそこにはメイファが立っていた。
ナイツとの連絡は終わっていたが会話を聞かれたかもしれない。どうする。彼はそれを確かめるために彼女に問いかけた。
「おどかすなよ。いつからそこにいたんだい。」
彼女は返事をしなかった。
そのまま沈黙があってようやくメイファは口を開いた。
「仮眠室にポータブル端末を忘れたので取りに来た。邪魔をする。」
彼女は仮眠室のベット脇のサイドテーブルの引き出しを開け端末を取り出した。
「じゃあ、あとは宜しく。」
気が付かれていなかったか。
シモンズはそう思ったがメイファは彼の会話をある程度聞いていた。気にはなったが面倒事はごめんだ。彼女は今夜のシモンズの事については黙っておく事にした。
それにしても彼はナイツとどういった関係なんだろうか。シモンズと次に当直になったのは2週間後でそれとなく聞いてみることにした。
「少しいいかしら。」
当直で交代時間になった時メイファはシモンズに問いかけた。
「この間あなたが誰かと話しているのを聞いてしまったのよ。」
やはりか。さて、彼女はどうしろと言ってくるか。
「あなたはナイツを知っているの。」
やはり、内容も聞かれていたようだ。
さて、どうごまかすか。
「ナイツは私がこの会社の最初の隊長だった人です。彼とやり取りをしてるのなら気をつけることよ。」
以外な言葉に彼は返事をためらった。
「気をつけるとは。」
「彼は目的を果たすためにはどんな事でもするわ。利用できると思えば人の命なんて簡単に奪う。彼の隊にいてなくなった隊員は両手の指では足りないわ。」
メイファの話を聞きながらなんとなくああそうなんだと納得しつつ何を話せばと考え込んでしまった。そうしてるうちにメイファが続けた。
「クレスも同じような匂いが少しするの。あなたはどう思う。」
「考えたことないな。優秀な人物であることは間違いなさそうだが。」
その時アラートが鳴った。すぐさま二人はメンバーに連絡し現場へと走り出した。
シモンズはいち早く現場で賊を取り押さえて仕事はあっという間に片付いた。そこに遅れてナイツ隊がやって来た。
「シモンズ。ご苦労。後は我々の隊で処理をする。」
その後遅れてメイファが到着した。そしてポツンと言い放った。
「上前をはねられたようね。」
そこに遅れてクレスが来た。
「また、ナイツ隊に持っていかれたか。」そう、呟いた。
「だが、これからはそうはいかない。シモンズ。メイファ。明日の午後に全員を事務所に集めてくれ。」
そう言ったクレスの顔は野心にあふれていた。
全員が事務所に会するのはいつ以来だろうか。そして、クレスが招集をかけるのは始めてだった。
「ガルーダがまだのようだな。」少し遅れてガルーダがすまなそうにやって来た。
「全員そろったな。これからの隊の方針について話しておく。今までの賊への対応はガルーダ、カーン、そして俺が行う。シモンズとメイファは我々独自の倉庫を入手し食料を備蓄しその運用に専念してくれ。」
少し間をおいて付け加えた。
「他の隊とバッティングした時はメンバー勧誘のチャンスと捉えておいてくれ。」
その話でシモンズはナイツへの連絡ができなくなることを憂いた。一回の連絡で100ドルの約束だったので来月の支払に足りるかどうか心配だった。それにしても警備員としてではなく他の業務に割り振られる事になろうとは。メイファは特に不満はなさそうに見えた。
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