第21話 エイデン隊
クレス隊の急な活躍に眉をしかめているのはアーバン内で最も隊員数の多いナイツ隊の隊長だ。盗難事件にどの隊が担当するかは早い者勝ちで反応が早い隊は成績も当然良くそしてアーバン社内での発言力や立場が有利に働く。
ナイツはまだ隊員数は少ないがこのところのクレス隊の働きに危機感を感じていた。今のうちに釘を指しておくべきと彼は自分の息のかかった者にクレス隊を見張るためにシモンズという若者を監視役としてクレス隊に入隊させるように仕向けた。
シモンズはクレス隊に入ると早速クレスに近づいた。
彼は社交的な男でいわゆるキーマンと呼ばれる人物に取り入るのが上手かった。それ故に同僚からは嫌われがちになりそうな気もするのだか同僚にも嫌われないように常日頃から気配りしていた。
まあ、それでもやっかむ者はどうしても居るのだが。
シモンズがクレス隊に入隊してから半年程経過した。その間彼は申し分ない働きでクレス隊に貢献をしメンバーも彼を次第に信用するようになってきた。
そんなふうにメンバーとして認められるようになってから、彼は本来の任務に着手するのである。
それは再び第3倉庫のアラートが鳴った時であった。そして、その日の当直はシモンズで事務所に備え付けられたアラート受信装置のアラートを即座に切りすぐさまナイツに連絡を入れた。そう、これが初めての裏切り。そしてこれが彼の本来の仕事である。全ての通報を横流しすると直ぐにばれるので何回かおきにするようにしている。そして連絡もさとられないように慎重に専用無線機を使って行っていた。
その次の当直は何故かメイファと二人でという指示がクレスから言い渡された。
「もしや、感づかれたのでは。」だが、今までどの隊でも感づかれたことはなかったしよくよく聞いてみるとアラートのスイッチを入れ忘れていたのに気づいたクレスがこのままではまた同じことがあり得ると危惧してチェックを強化するためにシフトに変更を加えたようだ。
メイファとの初めての当直はかなりギクシャクしたものとなった。シモンズは何とか打ち解けたいと話かけるのだが彼女の反応はあまりにもそっけない。
「君は何故アポロンに来たのかい。」
交代の時間に声をかけたのだが。
「さあ。忘れたわ。」
と、言うようにそっけない。
「異常はないわ。後は宜しく。」
そう言い放つとさっさと仮眠室に行ってしまった。
彼女は誰に対しても同じで距離を取っているようだ。それでも付き合いの長いカーンとは多少の雑談をすることもあるようだ。
深夜3時過ぎ、アラートが鳴った。メイファもいるから今日は工作はできない。アラートはメイファにも届いたのか直に起き出してきた。シモンズはクレスに連絡を入れて襲撃のあった第11番倉庫へと急いだ。この日の襲撃は小規模のものであったがやっかいな事に別の隊が同時に現場に来てしまった。
このように部隊がバッティングした場合は表向き協力する事になっているのだが実際は手柄の取り合いになる。
クレス隊と同時に現れたのはエイデン隊。アーバン内でも最も乱暴な隊で知られている。エイデン隊は隊長のエイデンを始めアベル、ジャス皆が皆起業当初からのベテランであり経験値はかなり高い。そして今回の襲撃はまだ若い二人の若者で捕獲者は後から駆けつけたガルーダとカーンが加わったクレス隊とエイデン隊の7名。数で上回り一瞬にして捕獲してしまった。
「お前達。止めないか。」
ガルーダとエイデン隊のアベルが成果について小競り合いを始めた頃ようやくクレスが到着して小競り合いをたしなめた。
一方エイデンは我、感知せずといったところでさっさと報告作業を進めていた。複数の隊が一件の案件を解決した場合報酬は隊の総人数に比例して支払われる。クレスが来ていないことをアベルがガルーダにいちゃもんをつけていたのはシステム上仕方がないことであったのだがアベルは常日頃そのことに不満を持っていた。
それがたまたま一緒になったクレス隊のメンバーに八つ当たりしたのである。それは隊長であるエイデンに原因があった。身体能力では右に出るものはない彼ではあったが管理者としての能力には欠けていた。入社から二十年。仕事はエイデンと共に確実にこなしてきたから生活は安定している。しかし、入社当時から隊の総人数も全く増えずだから社内での立場も肩身の狭いままである。それに比べてクレス隊は既に隊員は5名。その事に対するやっかみもあるに違いない。
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