第17話 面談

 その日も特に変化はなく地球からの荷物の搬入作業に追われていた。

 例によってクレスはラズベルにあれこれ指図している。

 移動の3ヶ月目を翌週に控えその準備だろうか、日々面談の回数が増えてきている。

 面談のタイミングは無作為のようだがしっかり作業の区切りで行われている。

 今日はクレスが呼ばれたようだった。

 彼の面談担当はダレン、相変わらず無表情で淡々と話し始めた。

 「君の次の配属先については先月の面談で伝えたとおり、A2-02農場でほとんど一人での作業となる。そのこともふまえてここでの残りの時間は今のチームを離れ君一人単独での作業を割り当てられる。」

 先日の面談から次の配属先を伝えられたクレスにとってそれは望まざる処遇であった。

 彼の思いは自分は、大勢の中でこそ自身の積極性やリーダーシップが発揮できると常日頃考えていたため、一人での農場での作業のことを聞いて不満な気持ちでいっぱいになっていた。

 それに対してミルズは宙港で輸入品の搬入監査の仕事を与えられると共に、彼には三人の部下が割り当てられた。

 このように待遇には多かれ少なかれ格差が生じる。そしていつの間にかこの差が皆の知れ渡る事となり、お互いの関係にも少なからず影響を与え始めたのである。

 クレスは自身の気持ちを抑えられる性格ではなくダレンに嚙みついた。

 「私のここでの仕事のやり方をご覧になっていますよね。それなのに何故私は一人での作業につかなければならないのですか。」

 ダレンはその問いかけにこう答えた。

 「アルテミスでは人の移動が頻繁にある為なるべく仕事は個々の能力に頼らざるを得ない。

 そのような環境で労働者同士の依存関係が強くなると人の移動があった場合、業務に多大な影響を与えることになる。そこでアルテミスでの労働者には個々の能力に応じた労働を心がけてもらっている。従って、君のようにリーダーシップを持った人材は逆にここでは扱いにくいと言わざるを得ない。それは、決して君の能力が低いと言っているわけではなくむしろこれから赴任する職場での働き方でここでのやり方を学んでもらうことを期待している。

 もう一つ付け加えると、アルテミスとしては個々の能力に期待はするがそれを強要するものではない。人にはそれぞれに向き不向きがあるゆえに不向きな職場であるとみうけられた場合は面談を行い希望を確認して後に移動をしたいのならばその要望にできる限り応える。

 不向きとこちら側が判断した場合も当人が今の職場に満足しているのであればそこはそのまま働いてもらうことを否定はしない。そこでの個人の働きは数値化でき個々の成果は計算可能である。それ故に労働者同士の影響は良くも悪くも計算を狂わせることになり精算計画に支障をきたすことになるのでアルテミスは今の君のように他の労働者に影響を及ぼすことを否定している。」

 そう語ったダレンは、大きくため息をついてこう付け加えた。

 「実は私もここにやってきた当初は君のように他の労働者にあれこれ指図をしていたことがあったんだよ。ところがそのことで彼らにボイコットをされてしまい大切な建造作業のスケジュールに大幅な遅れを出すというトラブルを招いたことがある。まだそれが学校の建造という生命維持には影響のないものであったので事なきを得たけれどもそれが生命に関わる食物等の生産に関わることであったならそれは取り返しのつかないことになる。アルテミスはそれを最も恐れここにいる労働者には他の労働者に対する干渉を可能な限り禁止しているんだよ。」

 そこまで厳密に生産活動を管理していたことを知らされたクレスは納得はしたがもやもやとした気持ちは払しょくされずに仕事に戻った。

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