第16話 アトラスミルズ

 パンドラでアルテミスにやって来たミルズは宙港の検閲機を通過すると携帯端末に表示された番号と同じ番号のインフォメーションシステムの前で私物の入ったショルダーバックを荷物置きに置いてパネルを操作した。

 トップ画面から個人認証画面に遷移し掌紋認証すると画面に行先案内が表示され、同じものが携帯端末にも転送された。

 案内には市役所の人事課の担当ダレンを訪ねよということだった。

 人事課は市庁舎の2階にあり既に担当者らしき中年の男性(多分彼がダレンだろう。)が指定の会議室の窓際の席に座り、その他に10名程度の新規労働者らしき人々が待合室に待機していた。

 「全員それったようなので工場に行って仕事内容の説明を行います。荷物がある方は持ったままついて来て下さい。」

 どうやらミルズが最後だったらしい。

 一行はトラベーターに乗り3ブロック分南方向に移動、産業地区の一角(とは言ってもトラベーターから工場内に入らないとその場所の広さはわからない。)が彼らの作業場となる。

 「君達には地球から輸送された荷物の搬入と仕分けをやってもらいます。トラベーターで部屋の外まで運ばれた荷物を部屋の指定されたブロックに移して下さい。」

 既に搬入された大量の段ボールの箱が整然と並んでいた。

 「仕事は明日から。初日は15分前の8時15分に出勤して下さい。仕事の指示はこちらのマルス主任が行います。」

 いつの間にかダレンの後ろに現れた50代くらいの男性が静かに一礼した。

 ダレンは表情を表に出さないタイプのようで、ミルズは少し不安を感じた。

 次の日、新人12名と先輩作業者8名の20人体制で作業をすることになった。

 最初に新人と先輩達の紹介があり、ミルズは5つある段ボールの集積場のうちの一番数の多い製品の整理を行うグループに割り当てられた。

 彼のグループはベテラン2名、新人3名がアサインされて、最初に簡単な説明があったようにリフトで運ばれた荷物の検品と検品結果に従ってさらに細かく荷物を移動することであった。

 ミルズは以前の職場でほぼ程似たような内容の仕事の経験があったので迷うことなく淡々と作業に取り掛かる事ができた。

 少しするとミルズは違和感を感じ始めた。

 と、言うのはベテラン2名は当然のようにある未経験者達に対する細かな指示を全くしないことであった。

 やがて、経験のないミルズの他の新人達は何をすれば良いのかはっきり分からないまま右往左往し始めた。

 新人のまだ20代だろうか。一番若いクレスがベテランの一人のコーウェルに指示を求めたが返ってきた返事はこうだった。

 「まずは、自分の思うようにやってくれたらいいから。」

 もう一人の新人ラズベルはミルズと歳は似通った中年の働き盛りのおじさんで彼も検品リストにない荷物に当たってしまいどうしようもなくなったのでもう一人のベテランのカイルに訊ねたが彼の返事も同じだった。

 仕方なくラズベルはその荷物を指定外の場所へと移動することにした。

 その時、クレスがここぞとばかりにあれこれラズベルに話しかけ始めた。

 ミルズは知らない人間のおもいつきの指図程結果に結びつかないことを痛切に経験していたから、なるべくはクレスには近づかないほうが良いだろうと判断して彼からは距離を置いて自分のすべき仕事を淡々とこなすことにした。

 それから毎日のように決められた作業を朝8時から夕方17時までこなすこと一か月目に給料の支給日があった。

 給料は指定の口座に振り込まれるがここではいちいち振込記録の確認を労働者に求めるようだ。さらに作業時の行動についての指摘事項を個別に個室にて各人に説明するための面談があった。

 ミルズについては仕事のやり方に問題はなく引き続き今までのように作業をこなすことと、3カ月後に今の仕事場から移動になるという話をされた。

 後でグループの二人にも話を聞いたところ同じように移動の話があったという。

 どうやらここでの作業は各人の適性を見るためのものだったらしい。

 アルテミスの移植者は予定数よりもはるかに少なく常に人員不足であったこともあり、入植からわずかの期間で必用とされる仕事場へと次々と送り込まれているようだ。

 そしてミルズはその移転先でアルテミスで欠かせない人材となるのであった。

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