第15話 調査
アルビンとルイーザはジェーンに再び同行してもらい翌日M0-11地区に赴いた。
さて、今回は10体のクラブを持参していた。一斉に放たれたクラブは一目散に熱源を目指して進んで行った。
その間、ルイーザは住人のガイア・ロイブについてのデータを集めていてそれをアルビンに報告した。
「ロイブは個人で仕事を請け負うソフトウェアエンジニアです。
ただ、ここ数ヶ月は活動記録がないようですね。
それ以前に彼に仕事を依頼した人達に聞き込みをしたところ全てリモートでのやりとりのみであり直接会ってはいなかったという事ですが非常に優秀なエンジニアではあるようです。」
そういうとデータを彼のモバイル端末に転送した。
送られたデータには彼の顔写真もあった。
どこにでもいそうな平凡な風体。エンジニアとしては優秀なようだが事件に巻き込まれる情報はない。
ただ、アルビンはある記録に少し違和感を感じた。仕事の内容の割には報酬が極めて高額であったことだ。
それに伴って彼自身には資産もあり、それに起因する犯罪の可能性も考えられたがそれを搾取するにはよほどのハッキング技術がなければ不可能であった。
その後のジェーンの調査からはそのような事実は見つからなかったという。
彼らの捜索用のクラブ達は熱源の前に到着すると2台が並んで掘削を開始した。
やがて掘削音が鳴りやみ月の土砂が蓋をしていた場所に穴が開き潜んでいたクラブが姿を現した。
アルテミスの外殻は一部が地上に出ているもののほとんどが地下にあり、機密を保つために地下10メートルの位置からクラブで穴を掘りながらその穴にクノス社の硬質エアジェルを注入していっている。従ってジェルの所までは月の土壌がそのままアルテミスの地面になっている。
今回M0-11地区で発生したクラブの失踪事件でクラブが隠れこんだ場所がその土壌の中という事だ。
熱源に到達したジェーンのクラブはチューブ状のケーブルを延ばして熱源周りに留まっていた失踪中のクラブに接触した。
そこでジェーンが声を上げて二人に伝えた。
「接触しました。これから通信して情報を取得します。」
そういうと端末を操作して動作を記録した動作ログの要求を行ったのだが、失踪中の迷子クラブ(彼らはそう呼んでいるのだが)からは何のデータも取得されなかった。
続けて他の3体の迷子クラブもチェックしたが結果は同じだった。
「うーん、何も残ってないわ。」
「そうか。まあ、そんなもんだろう。」
アルビンは結果を予想していたようだ。
ルイーザは心配そうにつぶやいた。
「これからどうすれば。」
アルビンはジェーンのクラブが撮影した赤外線画像をじっと見ている。ルイーザもそれを見てみたが彼女には何も目新しいものはないように感じた。
1分程彼はその画像を見ていたが何かに気が付いたのか軽くうなづいてジェーンに指示を出した。
「地面の固くない部分をクラブに探させてみてくれないか。」
彼女は端末を操作してアームを地面に押し付けることでその固さを測定するためのプログラムを起動させた。
10体のクラブは迷子クラブの隠れていた地点を中心に土の固さの探査を行っていたがやがて全てのクラブがあるポイントを取り囲んだ。
「つまりこの下に手掛かりがあるということか。君のクラブで掘り進めてみてくれ。」
彼女は彼の指示どおりにクラブを操作し、しばらくして他より柔らかい地面を割り出した。
「ありました。掘ってみます。」
ルイーザの2体のクラブが2本のアームを器用に使って柔らかいと思われる地点を掘り出した。
それは地下へと真っ直ぐに延びる軌跡。
地下10メートルのところでジェルがあるが直ぐにそこまで到達したらしい。
2体のクラブのセンサーからはジェルの反応が検知されたので結果何もなかったということであるが、アルビンは機械をそもそも信用していない。
クラブが掘った穴に近づくと耳をすませてジェーンにもう一度クラブに穴の中を捜索するように促した。
すると微かではあるが金属同士が接触しているような音が聞こえた。
「やっぱり機械は嘘をつく。」
アルビンはクラブが偽の情報を送ってきた事を確認し、本部に連絡、人手を要求した。
最先端の技術の粋を集めたアルテミスの地下でなんと人力による穴掘りが行われたのである。
「あったぞ。」
本部からの応援でやってきた若い警官が声を上げた。
発見されたのはなんと300体にも及ぶクラブの集団であった。
「ジェーン。ここからは君達の仕事だ。こいつらがここで何をしていたのかをはっきりさせてくれ。」
アルビンはこの事件については行方不明の住民ガイア・ロイブの捜索については報告書をルイーザに任せて所定の手続きを行いジェーンに後をたくした。
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