第14話 セシル・リード

 アルテミスの港には中肉中背の中年男性が出迎えに来ていた。

 彼の名前はリム・カペラ。彼は就航したシャトルの唯一の乗客である女性を待っていた。

 彼女の名前はセシル・リード。アルテミスの警察機構が発足してからの課題をコンサルしてもらうために招待された。

 しかし、それは表向きで本当はヘッドハンティングで招へいされたのである。

 彼女の地球での仕事は最も犯罪の多いとされるセントルイスの警察署長でありその統率手腕を買われての事であった。

 アルテミスの警察は一応組織の体はなしてはいたが、組織としての機能は不十分でありそのことを危惧した市長のムーアが地球に組織を統括する人材を求めたのであった。 

 セシルがアルテミスのヘッドハンティングの対象になったのは彼女がムーアの知り合いであったこと、天涯孤独でありまた地球での警察組織のあり方に疑問を持ちそれを公言してはばからずその結果組織から煙たがられていて次の人事で署長職を解かれることが決まっていたからであった。

 「ようこそアルテミスへ。どうぞ私がご案内致します。」

 リムはそう言うとトラベーターに先に乗り彼女を誘導した。

 「あなたはアルテミスの警察幹部だと市長から聞いています。」

 「ええ、刑事部長をやっています。」

 「アルテミスの治安はどんな感じなのかしら。」

 リムはセシルに背を向けてトラベーターを先に進んでいてどんな顔で答えたのか分からなかったが、自身の仕事の粗を指摘されたととらえたと思ったようで声の調子からきっと渋い顔をしているだろうと感じた。

 「移民を無条件で募っていますので犯罪が増加傾向にあります。」

 まだ、彼は彼女が自分の上司となることを知らない。

 「そう。」

 その後は二人とも声を発することなく警察本部に入って行った。

 そこで待っていたのは市長のムーアとその秘書のニール・ティムという長身の女性であった。

 ティムはセシルの勧誘の為に昨年地球に渡ったおり、面識があったので二人はそれとなく会釈をしあった。。

 ムーアとセシルはというとリモート通話で何度かは会話していたが実際に会うのは始めてであった。

 「ようこそアルテミスへ。旅はどうでしたか。」

 セシルは表情を変えずに答えた。

 「快適でしたわ。久しぶりにゆっくりできましたし、こちらの資料も十分に読むことができました。」

 「そうですか。じゃあ、すぐにでもこの都市の警察をお願いできますね。」 

 「ええ、早速明日から職務につかせていただきます。」

 ムーアは机の引き出しから書類の入った紙袋を取り出してティムに手渡し入口の方を指さして退出を促した。

 「手続き関係の書類は彼女から説明を受けて提出してくれたまえ。私はこの後議会があるので失礼する。」

 市長という肩書は分刻みのスケジュールを常に強いられ、そんな多忙の中それでも自身の見込んだ人材には必ず自身で会うことにしていた。

 セシルはそういうムーアの人柄にもひかれアルテミス警察長官の依頼を引き受けたのである。

 さて、彼女がアルテミスの警察長官の職を引き受けるにあたって一つだけ条件を提示していた。

 それは武器の持ち込みを水際で食い止める仕組みつくりをすることだった。

 その条件について、ティムがセシルに話があるということで二人は本部内の取調室の一つに移動した。

 ティムはコーヒーを二人分用意した後、先に口を開いた。

 「あなたの言う武器の持ち込みを禁止するという話に異論はないのですが、実際のところ可能なのでしょうか。それと持ち込みを防げてもアルテミス内部で製造されてしまったらそれは防ぎようがありません。武器の所持は法律で認められています。それを今更やめるというのは人々が納得しません。それに武器の製造と輸出を生業にしている者たちが職を失ってしまいます。武器はアルテミスにおいては重要な産業なのです。」

 「持ち込みは防げます。そして法にのっとって武器の製造を厳しく監視すれば平和な都市が維持できます。私はセントルイスでかなわなかった治安の良い市政を実現したいのです。

 そのために人を殺める武器は排除しなければなりません。武器産業に代わるものを早急に立ち上げねばなりません。それがいかに困難なことかということはもちろん承知しています。

 ですが、まだ幼い子供達までも犠牲になるような悲劇はあってはなりません。

 平和な町を作る為に協力してください。」

 ティムは少し考えて答えた。

 「市長からあなたをサポートするように指示されています。ですが、あなたの話は理想論であってやはり現実味がありません。それにあなたは警察であって政治家ではありません。

 まずは治安のことからしっかりとお願いします。」

 言葉は丁寧ではあったが棘があった。

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