第13話 訪問者
アルテミスの定期便の収容ゲートは都市の四方4箇所に設置されており南西のゲートにリュージュは向かった。
乗客のミルズは初めての月ということもあって緊張してはいたがパンドラの乗組員三名はとりたてて彼に何かを強いることも世話をやくこともなく、淡々とある程度距離を保った状態でいてくれたので彼も月への旅路を穏やかに過ごすことができた。
ゲートに到着すると車両が入る為の通路が地中に向かっていてミーモリー溶液で満たされておりプール状になっていた。
ミーモリー溶液はクノス社が特許を保持している液体でこれによって覆われている限り機密性は完全に保持され隕石などの飛来物なども溶液の厚みによって都市の外壁に到達する前にその衝撃を完全に吸収することで都市を守る構造になっていた。
通路については行き来しないときは幅3メートルの障壁の上にミーモリー溶液が満たされている。
リュージュ達一行はパンドラとアルテミスの行き来をするための小型ローバーに乗り込み、プール状のミーモリー溶液内に入って行った。
通路は下降しており数十メートルの所のセンサーがローバーを捕らえて障壁がゆっくりと開き、溶液の満たされた通路はその先から下降傾斜は次第に並行となり再び上昇になって最後に並行に戻った。リュージュはエンジンを切って空気のある駐車場に入り安全を確認してから機密ドアを開きそこで待っていた整備担当にパンドラの航行データを記録したデータ端末を渡した。
基地内は技術の粋を結集して快適な生活を提供してくれている。
定期便の運転手であるリュージュの居室はゲートから5分程の場所にある。
ミルズの滞在先はシステムのタイミングで半日先になるということでそれまでリュージュの部屋で入植の様々な手続きをすることとなった。
リュージュは生体認証で扉を開き居室に入るとミルズを招き入れ中央のソファーに座るよう促した後、彼は端末に向かいプライベートのメールをチェックした。
いつものようにコマーシャルがほとんどだったが、一つ気になるメールがあった。
あまり、親しくもなかった昔の同僚から機会があってアルテミスに行くことになったので休みが合うようなら会えないかという内容だった。
アルテミスの科学者達とは違い人付き合いもない彼にはそんな誘いさえも嬉しく直ぐにOKの返事を返したのである。
一通りの手続きを終えたミルズはリュージュに案内されて指定された宿泊施設に入り二人は別れた。
「ミルズさん、あなたの新しい職場は明後日市の就労課で通達があります。それまでは私の仕事を手伝うようにとのことなので、今日から私と一緒に行動して下さい。」
ミルズは前もってその事を聞かされていたので深夜作業であることに特に疑問もなくうなずいた。
リュージュはパンドラの操縦士からアルテミスの保守技術員へと再び日常へと戻り、決められたルーチンワークをこなす日々が始まった。
アルテミスの一日は夜明けの各パラメーターのチェックから始まる。
数万個あるパラメーターのうち日々1%程度はアラームが発生しアラームの種類によっては直にでも対応の必要がある。
午前3時、ランクAのアラームがけたたましく鳴り響きリュージュはベットから飛び起きた。
保守担当としての仕事が彼に割り当てられた。
最先端の粋を集めた月都市ではあっても修理は人の手でしかない。
今回のアラームは浄化槽のフィルターに異物が挟まったことによる汚水の逆流であった。
被害は微小ではあるが命に関わる水の事、リュージュはミルズに的確な指示を出し、ミルズは指示通りに丁寧に補修作業をこなしていった。
その時新たなアラームが鳴り響いた。だが、アラームの音色は障害を示すものではなくアルテミスにシャトルが近付いて来たという連絡であった。
シャトルの発着所は都市から3キロ離れた地点に作られており定期運行時はアラームは鳴らない。
これは臨時の就航の場合に発着の準備を作業員に知らせる為の合図である。
そして続いて彼に発着場に来るようにという指示が端末に届いた。
リュージュ達は浄化槽のフィルターの作業を終えるとシャトルの発着所の見える展望ドームに向かった。
彼らの作業場所は発着所に最も近いブロックにあったから就航前にシャトル到着を確認できた。
今頃なんだろうか。
彼は展望ドームから到着ロビーに向かった。
乗客は急遽地球から防犯対策強化の為に視察に訪れた警備会社のコンサルタントで女性のようだった。
彼女はフードをかぶっていてその容姿は確認できない。
アルテミスの担当者が先に来ていて彼女を迎えていた。
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