第11話 転職

 ミルズは地球に身内もおらず天涯孤独な人生を送っていた。それ故にダリアへの赴任にも抵抗はなく、そしてアルテミスへの転職についても障害はなかった。それでも二の足を踏んでいたのは全く未知の世界に足を踏み入れることへの不安が大きい所にあった。

 それでもあまりにも理不尽なバーンの仕打ちにはこれ以上耐えられないと感じたミルズはついにアルテミスの求人情報に登録をした。

 翌日電話がありその日にオンライン面接を実施、なんとその日の午後には採用の連絡があった。あまりにも簡単で不安は増すばかりであったがそれよりも二週間後にパンドラがダリアに寄港するので早速それに乗ってアルテミスに着任してほしいという事で、それまでにクノス社の退職手続きと引継ぎ書類の作成をしなければならなかった。

 幸い退職手続きはメールで全て完結できるので直接バーンとのやり取りも一度オンラインで嫌味を言われたので終わり、その後は黙々と後始末の作業に専念することができた。

 そしてついにパンドラが到着し、ミルズは月へと旅立ったのである。

 ただ、リサに彼がいなくなることで負担がかかることが少し心残りであったのだがしっかり者の彼女はミルズにとっては良いことだと思うと言ってもらえて少し気が休まった。

 パンドラの居室内で彼は新しい生活に希望を膨らませて久々に穏やかに過ごす事となった。

 

 一方、データセンターに戻ったアルビンとルイーザはジェーンからの連絡でクラブがある場所にどうやら集まっているという事が分かったけれどその先はログからでは解析できないという連絡を受けていた。二人はログ解析の結果を聞きにデータセンター内にある彼女のデスクに赴いた。

 二人を見るなりジェーンは会議室へ行くよう二人を促し彼女はデータ端末を用意して説明を始めた。

 「クラブの通信ログを解析して分かったことを説明します。」

 壁面いっぱいに据え付けられたモニターに居室N22-62を中心に周辺の見取り図が表示された。

 「居室N22-62の周囲にある赤丸が居室番号N22-62のクラブとの通信を行ったログを持つクラブの位置を示しています。そしてその軌跡はこの区画で途切れています。」

 「ここには何があるのかい。」

 アルビンの問いかけにジェーンは端末にタッチしてクラブの軌跡が途切れた付近の映像を映した。

 「ここM0-11はアルテミス建設開始当時のスクラップ置き場になっているわ。この中はクラブは配置されていないのでこれ以上は行って見てみるしかないわ。」

 「そうか、ありがとう。ルイーザ、この場所に行くことを報告しておいてくれ。それとジェーンにも同行してもらいたい。宜しいかな。」

 ジェーンは当然という顔でうなずき、端末の予定表に警察とM0-11に同行と記入した。

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