第10話 おとなしい男
「巡査部長、今ジェーンにクラブの行方を調べてもらってます。判明すれば連絡が来ます。」
「そうか、それじゃあ急がないとな。」
二人はN22-62を後にした。
ルイーザは一番近場の3117の作業リストの作業エリアにやってきた。記録ではマイクロコンピューターの故障の為部品を交換したとある。だが、部品番号をチェックしたところ交換した様子はない。残りの二か所についても同じであった。
端末の呼び出し音が鳴った。アルビンからだった。
「ルイーザ、奴は作業をしていないぞ。そちらはどうだ?」
「こっちも作業した形跡がありません。どういうことでしょう?」
「とにかく一度本部に戻ろう。」
本部に戻った二人はジェーンの調査状況を聞くためにデータセンターに向かった。
さて、パンドラが月に発進してから一週間後ダリアに地球からのシャトルが到着した。そのシャトルにはクノス社のレイモンド・バークが搭乗していた。
ドッキングチューブへの接続はスムーズに行われ、間もなくジェルクリーナー室から待機ルームに出迎えに来ていたアトラスミルズにバークは早速嫌味を口走った。
「忙しい私がわざわざダリアまで来なけりゃいけなくなった事だし折角だから今後の事をしっかりと決めて置こうじゃないか。ミルズ。」
ミルズはそれには答えずバーンをクノス社のオフィスへと案内した。
オフィスに入るとミルズはコーヒーを入れてバーンに直近3カ月の報告書を見せて説明をした。
「つまり貨物船の手配が遅れたのは君の過失ではなくドナウ社の連絡ミスが原因だということだな。」
「はい。」
「だが、君はそのリカバリー策を怠った。その責任は取ってもらうからそのつもりで。」
ミルズは押し黙ったまま何も言い返そうとはしなかった。そもそもこのトラブルについてはバーンに報告し了解をもらっていたので責任があるとすればそれを放置した彼の方にこそあるはずだったのだがそんなことを認める男ではなかった。
それから延々2時間バーンはミルズを責め立てた。
ミルズは無能な男ではなかった。むしろ勤勉で慎重でありダリアのクノス社の流通には欠かせない人材であった。しかし、バーンという上司の為に彼の社内での評価は低い。バーンはミルズの堅実な働きぶりを認めたというよりか自らの出世に利用するために彼をダリアに移動させた。
ミルズにとってはダリアに来ることによってバーンの支配から逃れられると考えたのであったが残念ながらそうはならなかった。そして彼には今まで転職するだけの勇気はなかった。
散々罵られてどんよりした気分でミルズは自社の補給基地内の事務所に戻った。
ミルズは携帯端末で転職先の情報を探すことにした。いくつか求人がある様子だ。その中には月のアルテミスの求人もあった。
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