第9話 捜索

 クラブがどこに行ってしまったのかルイーザは警察本部のデータセンターまでジェーンに来てもらいクラブのログ解析を行うよう依頼した。二人は移民の時に知り合いになってから時々連絡を取り合う友人であった。

 プライバシーに関わる映像や音声の記録はクラブから直接取得しなければならないが、ログデータは全てデータセンターに送信されている。

 ジェーンはまず、N22-62での事件発生アラートが何故発生したのかを確認した。

 記録によるとN22-62の扉の開閉がなかったにも関わらず住民ガイア・ロイブの生体反応が全てのクラブで消失したためであった。

 次に、彼女はガイア・ロイブに支給されているクラブが今どこにあるのかの確認を行ったがその記録は何故か見つからない。

 「ルイーザ、N22-62のクラブがどこに行ってしまったのかは直ぐにはわからないわ。」

 ジェーンは残念そうに語った。

 「近辺のクラブとの通信履歴を追跡すればある程度の場所はわかると思うの。それには少し時間が必要だわ。」

 「わかった。じゃあ、お願いしてもいいかしら。私は次の事件があるのでもう行かないと。」

 ルイーザはジェーンに追跡を依頼するとデータセンターを出て行った。

 ジェーンは再びモニターに向かうとN22-62の両隣の居室のクラブの通信ログをチェックしていった。通信ログからそれぞれの居室に多数支給されたクラブのIPアドレスを排除しガイア・ロイブに支給されたクラブのIPアドレスを特定した。

 行き先を追うためには特定したIPアドレスの記録されたクラブのリストを抽出するプログラムを組み上げる必要があった。彼女は音声でプログラム作成の指示を出し、プログラムを実行させた。

 モニタにアルテミスの見取り図が表示され起点となるN22-62の位置が赤く点滅している。

 見取り図状の赤い点滅はやがて次の一に移動し、今まで点滅していた点は赤い点灯に変化した。次第に赤い点はゆっくりと移動して行った。後はその移動が止まったところがガイア・ロイブのクラブの行き先と考えられるのであった。

 アルビンは引き続きガイア・ロイブの居室に出向いて部屋内の捜索を続けていた。

 ガイア・ロイブは記録では電気技師でアルテミスのトラブル対応で生計を立てているごく普通の労働者である。

 「遅くなりました。」

 ルイーザが到着した。

 「お疲れ。」

 アルビンはぶっきらぼうにぼそっと言うとこう続けた。

 「ガイア・ロイブという男のことだが人付き合いが皆無だ。そして事故の直前までの行動記録にも何の不信点もない。だが、少し気になることがある。」

 「何が気になっているのですか?」

 アルビンは机の上の埃を指ですくった。

 「この部屋には生活感がない。いくら日々の仕事に明け暮れていたとはいえ誰かが生活していた痕跡がない。記録では10日に1日休みでそれ以外はほとんどトラブル対応で外に出ている。ならば寝に帰るだけのはずなのにベットは乱れ一つない。」

 「巡査部長、直近の彼の仕事を調べてみます。」

 「そうだな。では二手に分かれよう。リストの3121、3119、3117を確認していってくれ。」

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