第6話 蟹ロボット
パンドラへの積み込みが終わるころリュージュはジェームズと月への航路についてのミーティングを行っていた。コンテナはダリアに来た時よりも3個増えていて、月に着いたときにどの順番にどの倉庫へ搬送するかの手順の確認である。それが終わるとリュージュとジェームズはタナー長官の約束した時間にドッキングチューブの入口へと迎えに行った。
タナーは自らデスクトップコンピューターサイズの荷物をキャリーに載せてドッキングチューブの前にやってきた。
「リュージュ、この荷物は直接アルテミスのムーア市長に手渡してくれたまえ。荷物の中は今後の月都市の政治の要になるということらしい。」
「わかりました。ちなみに荷物は何でしょうか?」
タナーは両手を前に出して掌を上に向けて知らないというジェスチャーを取った。
「まあ、政治の要というほどのことなので極秘中の極秘だという事はまちがいないと思うのだがこの荷物の中身は私を含め誰も知らされていない。ランバート社の担当者が言う事にはとりたてて目新しい技術ではなく極秘扱いにするほどの物ではないのだけれども、アルテミス側から極秘扱いにして欲しいという依頼があったという事らしい。」
そこに、ジェーンが手続きを終えてやってきた。
「ジェーン、この荷物を宜しくお願いしたい。まあパンドラに乗り込んでしまえば心配することもないんだが念のため居室にはリュージュとジェームズ二人も同行して安全を確認してもらいたまえ。」
「わかりました。」
三人そろって荷物をジェーンの居室まで運んでジェーンを居室に残してリュージュとジェームズは操縦席に向かった。
やがてパンドラはダリアから発進し、月への航路を取った。時間は既に夜中。
リュージュ達も自動操縦に切り替えが完了した後、規定の1時間が経過した後、居室に戻り就寝することにした。
宇宙空間の航海は静寂の中にかすかなエンジン音が聞こえるだけである。そんなパンドラで8個目の最後尾のコンテナで「カサカサ」という音がした。隅っこの目立たないところに置かれた紙包みからその音が聞こえた。しばらくすると紙包みの一か所が破れてスチール製の機械の一部が現れた。何やら小型の蟹に似たロボットのようである。大きさは手のひらに乗っかるくらいのサイズでほとんどがスチールの骨格のみで中心部に黒い小さな箱のようなものが備わっている。おそらくそれがこのロボットの頭脳部分であるのだろう。
まさに蟹のように上の方に2か所目がついている。目というよりはそれはセンサーであるのだが機械には目というべきセンサーがその位置にあるのは生物的にも機械工学的にも必然である。
蟹ロボットは1体だけではなく最初の機体が包みから出た後続いて後2体が出てきた。
それらは暫くコンテナ内を探索していたかと思うと1体がドアの横の壁に吸い付くように張り付いて入退室の認証装置の位置まで這い上がった。
そこで静止して数秒じっとしていたかと思うと扉が開き、3体は次々とコンテナと一体となった廊下へと素早く出て行った。蟹ロボットが無線信号によって指紋認証をクリアしたのである。
廊下は進行方向に向かってコンテナの右側にあり、コンテナとコンテナ間の接続箇所は金属的に接合された箇所をエアジェルで覆い機密を保っている。
コンテナの扉には居室のものと同じ指紋認証の機能が備わっているので、開閉されたことに対するアラームは操縦席の赤いランプが点灯するのとシステムログとして記録されるだけで特にはない。
蟹ロボットはコンテナエリアと居室エリアを隔てる扉を同じように解錠し、居室エリアのジェーンの居室の扉も難なく解錠して3体そろって中に侵入した。
蟹ロボットのターゲットはやはりムーア市長宛の荷物であった。
ジェーンはダリア滞在時の疲れもあってか熟睡しており、扉の開閉と蟹ロボットの侵入程度では全く起きる気配がない。
3体は荷物の前に集まり、ゆっくりとアームを動かし連携して梱包を解きだした。
この作業はかなり慎重になされ全く音を立てない神業的な作業が行われた。梱包が解かれ蓋が2体のアームで支えられている間、残りの1体が箱の中に入り、なにやら処置を施したのか5分程で箱から出てきた。
その後は3体がまた連携して寸分の狂いもなく梱包を行い見た目何事もなかったかのように梱包を解く前の状態に戻し来た時と同じように扉を開けてジェーンの部屋から最後尾のコンテナの紙包みに収まった。
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