番外編2 月ケ丘学園

〜これは詩花がまだ聖蘭学院に行くまでのお話〜


義足になって数年の月日が流れ、すっかりと義足に慣れた詩花は周りと少し遅れて私立月ケ丘学園へ入学した。


詩花は少し緊張した顔で教室のドアを開ければ「お……おはよう!」と声をかけた。声をかけられたクラスメイトは笑みを浮かべ「おはよう」と返事をしてまた別のクラスメイトと話し始めた。詩花はキョロキョロと見渡したあと自分の席に座り小さく息を吐いた。

暫くして教室に担任の教師が入ってこれば、日直の号令で騒がしかった教室が静かになった。

「皇。一応今日が初日だから自己紹介してくれるか?」と問いかけた。その問いかけに軽く頷き「えっと……皇 詩花です。左足が義足なので迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いします」と告げてぺこりと頭を下げた。その言葉にクラスは少しざわついたがすぐに静かになり詩花はそのまま席に座った。



それから数ヶ月が経ち、詩花はすっかり月ケ丘学園での生活に慣れていた。しかしクラスメイトからの奇異な目は強くなっていった。詩花はその目にも負けず登校していればクラスメイトの1人が故意に足をかけた。ガシャン!と音を立てて転んでしまえば足をかけた本人はクスクスと笑い「あっごめーん。」「皇さん大丈夫ー?」と告げた。詩花は小さく笑みを浮かべ「大丈夫……少し転んだだけ」と告げれば立ち上がり席に着いた。その様子に面白くなさそうな表情浮かべたクラスメイト達はコソコソと話していた。その声は詩花にも聞こえたが、聞こえないフリをした。



次の日、詩花は教室へ向かうといつも通り「おはよう」と声をかけたがクラスメイト達は1度詩花を見たあと何も言わずに目を逸らした。その様子に詩花は首を傾げたあともう一度「おはよう!」と声をかけたあとどこからか「うるせぇよ」と小さく呟くような声が聞こえた。その言葉に詩花は目線を下にしてそのまま席に座った。

そこからは早かった。教科書を隠されたり、ノートを隠されたりといった嫌がらせから始まり、詩花が話しかけても無視をされるようになった。その状況にも詩花は負けず登校するもだんだんと詩花からは笑顔がなくなり、表情が暗くなった。

その様子を見たクラスメイト達はクスクスと笑い詩花への嫌がらせをさらにエスカレートさせていった。学校や家でもため息が増えた詩花を見兼ねた両親は転校を提案するも詩花は負けずに登校を続けた。それが面白くなかった女子のクラスメイト達は詩花を体育館倉庫に呼び出した。

「えっと……どうかした?」

「あんた面白くないのよ。毎日毎日懲りずに学校に来て……そもそも義足だからって先生にちやほやされて!」

「いい迷惑よ!だから少し痛い目見てもらうわ」

そう言ってクラスメイト達は笑みを浮かべながら体育館倉庫のドアを閉め鍵をかけた。

閉じ込められた詩花は膝を抱え耳を塞ぎ小さく「助けてお母さん……」と呟き暫くした後ドアを叩き助けを求めた。その声に気づいた教師がなんとか詩花を助け出せば詩花はそのまま月ケ丘学園に通わなくなった。


「詩花…転校しよう。もう限界だ」と父が言えば詩花は小さく頷いた。詩花の心はもう壊れかけていた。それを見兼ねた父が詩花と目を合わせて言ったのだ。「詩花。お別れの挨拶はする?」と母が言えば詩花はふるふると首を横に振り拒否をした。


こうして詩花は月ケ丘学園から聖蘭学院に通うことになった。

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