12月25日②

12月25日

 久しぶり。僕はある理由で君の顔を毎日見ています。手紙を書いている頃の君にはわからない方法でね。もしよかったら確かめに来てほしい。

 今回は長い手紙だ。話題が2つもある。どうやって返事をしようかと考えたけど、やっぱり順番に書くことにします。君と違って、僕には時間があるからね。ゆっくり、順序だてて書くよ。


 まずは、建物の話から僕の出不精についてだね。反論しておきたいのだけど、君だって出不精の域は出ないんじゃないかな? 地下都市にいたころも、君は商業区画にも自然区画にも用事がなければ出掛けなかったじゃないか。

 行くとすれば食堂か浴場のエリア。ただでさえ少ない娯楽を君も僕もほとんど楽しんでいなかった。日々の徴兵訓練への対価として支払われるクレジットを僕は月に数冊も出ない本に回し、君は供給制限のされた食事のみに使っていたから、僕たち、けっこう貯めている方かもしれない。


 だから今度、貯まったクレジットを持ってどこかへ行こう。戦争が終われば、地下都市から自由に出られるようになって旅行というものにも行けるようになる──重ねて書くが時系列は大切だ──と思うから。事あるごとに僕の部屋にやって来ては沈黙を重ねる段は過ぎているし。


 あと、君に建物の名前──総称、種類名と言うべきか──を教えてくれたアイさんだけど。なぜ、彼女はビルなんて知っていたのかな。もしかしたら、情報ベースへのアクセス権限を持つ口の軽い人が他にいるのかもね。上官に睨まれないよう、気を付けて。


 次は夜空の話かな。そうだね。確かに一層目の天井だけ、僕たちは【空】と呼んでいた。あそこに住む住民なら、子どもの時分には誰もが一度は抱く疑問だ。大人たちはだいたい皆、同じ答えを持っていたね。「一層目の天井だけドーム状になっているでしょ。あれを【空】と呼ぶのよ」。答えになっているかどうかわからないけど、僕たちは納得していた。

 

 ちなみに、第2深度情報ベースで見つけた、地下都市設立当初のパンフレットには「人類が地下に居ても地上を忘れぬために【空】と名付けられました」と書いてあったよ。だから、君の予想は正しい。だったら、他の階層も全部同じようにすればよかったのではないか、なんて意見もあるけど。僕は敢えてそうしなかった説を推すよ。そうしなかった理由は色々考えられるけど、空は世界で1つしかないからね。何個も作りたくなかった、というのが一番ロマンに溢れていて好きです。君はどうかな。

僕より先に本物の空を見た君を羨ましく思います。予想では、地上から文明は滅びているそうなので、君たち以外に地上の光源は恐らく存在しないでしょう。星も月も、地上の光で隠れてしまうらしいから、君たちは僕たちの時代で最も美しい夜空を眺めているはずだ。

 また、その光景を君の口から聞かせてください。

 それでは、お元気で。

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