10月15日

10月15日

 久しぶり。毎日顔を合わせていたのが嘘みたい。アナタの顔を見れなくなってもう3ヶ月以上も経ちました。


 今日は外の世界の話をします。そう、地下都市 シェルターの外。私たち人類が300年と少し前から閉じ込められている地下都市の外の世界の話。

 でも、何から話せばいいかわからいのが本音です。だって、見るもの全てに発見があるんだもの。まず驚いたのは建物の高さ。私たちの住む地下都市10層をぶち抜いてしまうんじゃないかってぐらい大きな建物が自然区画の林みたいに並び立っているの。しかも、細くないわ。太い、この太さを表現できる言葉が見つからなくて、上手くアナタに教えてあげられないけど。そうね、私たちの一般居住区画なら、5ブロックは余裕で入ってしまうと思う。縦じゃないよ? 横というか、一層にそれだけ並べられちゃいそうなほど。これだけで、どれだけ多くの人々が昔は住んでいたのか、気になっちゃう。


 建物だと、そう、色々な形があるのも面白いな。さっきの縦長に高い建物、ビルって言うんだって。今、アイが教えてくれた。そのビルも、直方体だけのものかと思えば、円柱だったり、なんだか歪な形をしていたり。ほとんどの建物が完全な形を保っていられず崩れちゃっているけど、なんだか昔の人は歩いて建物を眺めるだけで楽しめていたんじゃないかな。こんな街だったら、出不精なアナタももっと外に出ていたかもしれない。


 あとは、そう。地下都市は朝と昼と夜で共用部分の照明が徐々に明度を落としながら(あるいは上げながら)切り替わっていくけど、あれは外の世界の再現なんだって改めて気づかされました。昔、アナタが得意げにそんなことを言っていましたね。あの時の私は「整備課の怠慢でしょ」なんて否定しちゃってた。ごめんなさい。今のうちに、謝っておきます。

 そう、夜。夜は危険がいっぱいなんだ。300年もほったらかしにしていたから、動物が凶暴になっちゃってる(知ってた? 犬って人間に嚙みつくんだよ?)。だから、寝込みを襲われないように、順番に見張りをします。熱源とウイルス感知式の暗視ゴーグルを頼りに、ね。凶暴な動物が襲ってくることもそうだけど、その動物が敵に感染していることも考えられるから気が抜けない。ううん、違う違う。こんな話をしたかったんじゃないの。


 本当に伝えたいのは、暗視ゴーグルを取った後。暗視ゴーグルをつけているととっても気持ち悪くなる。視界は緑一色で、視界情報の解析と更新で視線運動とラグがあるから身体に違和感がかかる。って、これはアナタが一番知っているか。訓練が終わるたびにトイレに駆け込んでいたもんね。


 でも、この悪魔の暗視ゴーグルを外して空を眺める瞬間がとてつもなく好きです。真っ黒な空にまるで小さな金色をばら撒いたみたいに灯が灯っているの。そして、一際大きな星。この星は日によって形を変える。真ん丸だったり、半分だったり、半分以上も欠けていたり。地下都市の一層の天井、あれを【空】と呼ぶのはきっと外の世界を忘れないためだね。だから、既視感があったんだ。

ああ、もう紙幅が尽きます。最後の方は文字が小っちゃくなっちゃった。

 またね、元気で。

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