古代魔導兵器インドラ Side:マルクス

 ドヴォルザーク帝国へ向かう船。その甲板の上で私は過去・・を見据えた。


 島国ラルゴの主・ラスティは『聖戦』に同意した。

 まさかこうも簡単に巻き込めるとは思わなんだ。


 ラスティは、聖戦のルールをまるで理解していない素人同然。

 おかげで助かった。


 これで私の計画はまた一歩前進する。



「マルクス様、これで元老院の権力が戻りましょう」

「おぉ、我が騎士クラウス・リヒトブリンガー。そうだな、ラスティは賢くはなかった。ヤツの選択が帝国を変えるのだ。皮肉よな……」


「そうですね。彼は知らない……聖戦に同意すれば、全てが平等になるのだと」



 そう、あらゆる者のレベルやステータスは全てゼロになる。皆、同じ条件下で戦う。それが聖戦のスタートなのだ。


 ラスティは、そのことは知らなかったようだ。

 だから、あんなにも簡単に同意したのだろう。愚かなり。


 それと元第一皇子と第二皇子の存在。


 あの二人は見事に平民を装い、ラスティを油断させた。全ての大陸を統一する裏計画も始まっているというのにな。


 これで“舞台”は完全に整った。


 あとは明日の聖戦を待つのみ。



「これで共和政ドヴォルザークが完全復活する」

「はい。マルクス様の理想が目の前に」



 時代は帝国ではない。共和政。元老院が全てを決め、全てを掌握する。

 そう、皇帝ではない。元老院議長である“私”なのだ。


 すべてのものは未来ではなく、現在でもなく……過去こそが栄光。過去こそが繁栄。


「クラウス、手筈通り……島国ラルゴの付近に戦略的“インドラ”を放て」


「よ、よろしいのですか……? アレは古代魔導兵器。一撃で島を吹き飛ばすほどの威力です。数百年前、魔王ドヴォルザークによって一度使われ、ある島が消え去ったという……」


「なぁに、ラルゴを消滅させるわけではない。平和ボケした愚民共へ警告だ」

「分かりました。それでは近くにインドラを放ちます」



 これで私がどれほど本気かラスティは理解するだろう。

 そして、同時に絶望的な恐怖を味わうはず。


 ドヴォルザークに皇帝いなくとも、元老院には力があるのだと。


 そう思い知るであろう。



 数時間後、古代魔導兵器インドラが空から放たれ、島国ラルゴの付近に落ちた。



 巨大な太陽が降り注ぎ、破壊的な暴風と熱波、そして巨大津波が起きた。



 かなり離れた船にも、その熱を肌で感じたほどだ。


 今頃島国ラルゴでは大変なことになっているだろう。混乱し、民たちは不安で押しつぶされているはず。

 ドヴォルザーク帝国いれば良かったと、心底そう思うはず。



 ……さあ、はじめよう。



 愚かな者達よ、戦いはすでに始まっているのだ。


 皇帝を決めるのではない。

 元老院の復活をはじめるのだ。

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