アカシックレコード Lv.10

 マルクスの船が帰ったあと、エドゥが俺の服を引っ張ってきた。


「……ラスティ様」

「なんだい、エドゥ。お腹でも空いたのかい」

「いえ。その、不吉な予感がするのです」


 大賢者であるエドゥの予見だ。

 間違いはないはず。

 きちんと聞いてやるか。


「話してみろ」

「はい。自分の……女の勘になりますが」

「ふむ」

「この島に災いが降りかかる可能性があります。情報を確定させるのなら、世界聖書を使う方がよろしいかと」


「災いねぇ。てか、世界聖書で分かるものなのか?」


「はい。世界聖書は、過去・現在・未来を読み取ることが出来るのです」



 ああ、そういえば以前に能力の開示があった。

 改めて見てみよう。

 俺はスコルを呼び、聖書の能力を確認した。



 [世界聖書ウルガタ]

 [効果]

  世界に一冊しか存在しない聖書。

  これを所持する者は真の聖人となれる。

  ヒエロニムスという特殊な言語で書かれており、エルフの聖女でなければ解読できない。

  最大七つの効果を持つ。


  ①アカシックレコード Lv.10

   歴史を保存したり読み取る力。

   世界聖書の基本的スキル。

   このページがなければ世界聖書は使用できない。


  ②ソウルコンバージョン Lv.10

   体力・魔力を吸収、変換、供給可能。


  ③スーパーノヴァ Lv.10

   膨大な魔力を消費する。

   街レベルで破壊的な爆発を起こす。


   無属性ダメージ:100000%


   このスキルを使用後、反動でしばらく動けなくなる。


  ④解読できていません

  ⑤解読できていません

  ⑥解読できていません

  ⑦解読できていません



 改めて確認しても、凄まじい内容だ。


「あ、あの……ラスティさん、なぜ聖書を」

「スコル、未来を視れないかな。アカシックレコード Lv.10を使ってさ」

「可能ですが、物凄い魔力を消費するので……わたし、しばらく動けなくなります」


 そうだった。世界聖書は魔力バカ食いの高燃費らしい。ひとつのスキルを使うだけで、本人がダウンするという。


 だから、無理に使うことはなかった。


「大丈夫。俺がスコルを守るから」

「それなら安心ですっ! で、では……スキルを発動しますね」



 みんなに下がってもらった。


 スコルは世界聖書ウルガタに魔力を込め、ページを開く。本は宙に浮き、ペラペラとめくれていく。

 とあるページで止まった。『アカシックレコード Lv.10』だ。


 やがて、スコルの中へ膨大な情報が与えらえていくような光が見えた。


 な、なんて神々しい黄金の光。

 まぶしくて直視できない。


 これがアカシックレコード。あらゆる時間に干渉し、読み取る力なのか。


 しかも、これはエルフの聖女でなければ読み取れない。ヒエロニムスという特殊言語が使われている。

 そんな言語たちが周囲に出現して、より神秘を増した。



「スコル、大丈夫か?」

「今、終わりました」

「なにか分かった?」


 確認をすると、スコルは青ざめていた。

 なんだ……様子がおかしいぞ。



「……はい。今から日が沈む前に……島国ラルゴの近くに……太陽が降ってきました」


「え……? 太陽だって……?」



 その言葉の意味が理解できなかった。なんだ、太陽って。……いや、あの空にある太陽だよな。それが降ってくるって、只事じゃないぞ。


 焦っていると、テオドールが興味を示した。



「なるほど。古代魔導兵器の可能性があるな」

「テオドール、知っているのか」


「ラスティ、君はちょっと過去を勉強した方がいいぞ。……ま、それよりだ。古代魔導兵器は、魔王ドヴォルザークが開発したという、最強兵器。島を消滅させるほどの威力がある。ほら、その元勇者が強すぎたからね」



 ジロっとルドミラを見るテオドール。彼女は逆にテオドールを睨みつけていた。



「失礼ですね、テオドール。私は確かに勇者でした。魔王を倒すために立ち上がっただけです……!」


 ぷんぷんと怒るルドミラ。なるほど、過去の戦いか。けど、島を消滅させるって、どんな威力だよ。俺の防衛兵器の魔導レーザーでも、そこまでの威力はない。


 太陽が降ってくる……ヤバすぎるな。



「ルドミラ、その太陽を見た事があるんだな?」

「ええ、一度だけです。それはオラトリオ大陸に落とされたのです」

「オラトリオ大陸だって? エルフの国がある場所じゃないか」


「ええ、まあ。当時はボロディンを拠点にしていたんです」

「そうだったのか」

「テオドールがハーフエルフであり、彼の実家があったので」



 そういえばそうだった!

 完全に忘れていたよ。



「ちなみに、私はグラズノフ共和国出身なんだがね。父上が人間でね」



 そういうことか。

 昔の戦いでも古代魔導兵器が使われたんだな。それが今も使われようとしているんだ。いったい、誰が……? なんの為に……?


 ……まさか帝国、なのか。

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