帝国乗っ取り計画

 なんにせよ、共和政ドヴォルザークの復活なんて……元老院が得しかしない。

 俺の島国ラルゴを認めない元老院議長マルクス・ヴァンデルハート。コイツが権力を持ってしまえば、俺の島に攻め込んでくる可能性すらある。


 マズイな。


 仕方ない。

 不本意ながら、俺は決断を下した。


「マルクス……ラルゴはたった今から、聖戦に参加する」

「……!!」


 俺の言葉に、全員が驚愕していた。

 騒然となり、叫ぶ者すらいた。



「ええッ!? 兄上、本当にいいのか!?」

「落ち着けハヴァマール。俺だって悩みに悩んだ。けどな、どちらにせよ……マルクスは待っちゃくれない。ルサルカさんを利用する気だし、このままにはしておけないだろ」


「た、確かに……しかし」


「いいんだ。住民を巻き込んだこと、これは俺の責任。だから、上に立つ者として、俺が聖戦に参加する」



 そう宣言すると、マルクスは意外そうに――けれども、ニヤリと笑った。コイツ……まさか、最初からそのつもりで。



「よくぞ言ってくれた、ラスティ。これでラルゴも無関係とはいかなくなったわけだ」

「そうだな。みんなにも参加する権利がある」


「ルサルカを守ったつもりだろうが、しかし安心しないことだ」


「分かっている。戦いが待っているんだろ」

「もちろんだ。我々は共和政ドヴォルザークの復活を望んでいる。だが、皇帝になれば、それもまた同義。この私も参加するということを忘れるなよ」



 背を向けるマルクス。

 どうやら船に戻るらしい。



「帰るのか」

「聖戦への参加を聞ければ十分。グランツ、お前も来い」



 マルクスは、息子のグランツを呼ぶ。

 だが、彼は拒んだ。



「ふざけんじゃねえ、親父。俺は帰らねぇよ」

「なにを言っている。さっさと戻るぞ」

「まだこの島を理解していない」

「言っている意味が分からんな」

「親父には分からんさ」



 あくまでグランツは、ラルゴに留まるらしい。なぜ、そこまでこだわるのやら。俺でも理解し難い状況だった。

 けれど、止める気もなかった。


 ラルゴは自由だからだ。



「……まあいい。グランツ、お前は勝手にしろ」

「あぁ、勝手にする」



 意外にもマルクスは、グランツの滞在を許して船へ戻っていく。

 ルサルカと母親は残していくようだ。それなら都合がいい。二人は島に置く。その方が安全だ。


 やがて、マルクスの船は出航。

 ラルゴから離れていった。


 ……なんだか潔いというか、聞き分けが良すぎる気がするが……島国に危害を加えないのなら戦争はない。


 聖戦で決着をつける、ということか。



「あの、ラスティさん」



 心配そうに話しかけてくるスコル。俺は彼女の手を取った。



「安心してくれ、スコル。俺は負けないよ」

「でも……皇帝になるかもしれないって……」

「そうだな。でも、帝国を支配させるわけにもいかない。この島国の平和が脅かされるかもしれないから」



 マルクスは本気で帝国を乗っ取る気だろう。そうはさせない。

 もしもヤツが頂点に立てば、周辺国に危害が及ぶだけでなく、この島国すらも侵攻の対象になりかねない。領土拡大の為にな。


 ともかく、今はルサルカさんだ。



「ルサルカさん、これで良かったかな」

「……はい。ありがとうございます、ラスティ様! おかげでお母様と再会できました」

「君は静かに暮らすといい。聖戦のことは俺に任せて」

「すみません」


 申し訳なさそうにするルサルカさん。母親も同様に感謝してきた。



「あの、娘をありがとうございます」

「いや、構わないよ。ぜひ、二人で暮らしてくれ」

「本当になにからなにまで……」



 二人は喜んでいた。

 少なくとも、この選択に間違いはなかった。


 しかし、ルドミラは妙な顔をしていた。なにか納得できないようで、俺に耳打ちしてきた。


「ラスティくん、どうも腑に落ちないのです」

「なにが?」

「あの母親を名乗る方です」

「ふむ……話してみろ」

「彼女は、確かにドワーフです。ですが、こんな都合よく母親が現れるでしょうか。本当に隠し子なんているのかどうか」


 ルドミラの言っていることはもっともだ。そもそも、マルクスの話は本当なのだろうか。しばらく様子を見る必要がありそうだな。

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