自由となったロイヤルガーディアンの事情

 小屋の中は綺麗に整頓されている。

 木造の落ち着いた雰囲気。

 狭いかなと思ったけど、予想以上に広い。


 こりゃびっくりだ。スケルツォにこんなセンスがあったとは。


 普段はドヴォルザーク帝国の城内に引き籠っているからなぁ。



「へえ、まさかこんな本格的に移住していたとはね」

「黙っていて申し訳ないです」

「いや、いいんだ。それより話を」

「分かりました」


 直ぐ近くにあるテーブルへ。

 椅子に座り、さっそく話を聞くことに。



「それで、なぜこの島に?」

「それはもちろん、聖戦が絡んでいます」

「ふむ?」

「わたくしは、皇帝陛下を護衛する存在。しかし、今や陛下は不在の状況……そして、聖戦がはじまったのです。つまりですね、ロイヤルガーディアンの任が解かれるのです」


 そういうことだったのか。

 確かに、ドヴォルザーク帝国は皇帝がいないままだ。

 今あの国を動かしているのは、実質は上級監督官のブルース――いや、シベリウスだ。

 ロイヤルガーディアンは、あくまで皇帝直下の衛兵だ。


 シベリウスを守るのはレオポルド騎士団の務め。

 となると『聖戦』がはじまってしまえば……スケルツォは自由の身というわけか。


 けれど。


 ふと思った疑問をストレルカが聞いてくれた。



「あの、スケルツォさん」

「はい、なんでしょう。ストレルカ様」

「でも……ドヴォルザーク帝国にいなくて大丈夫なんですか?」



 そう、それだ。

 任を解かれたといっても、ロイヤルガーディアン。皇帝と帝国を守護する者でもある。


「わたくしは……生まれた時から自由がなかったのです。任を解かれた今くらいは好きに生きたいなと思ったのです」

「……そうとは知らず、申し訳ありません」

「いいのです。わたくしも身勝手とは思っていますから」


 そういえば、スケルツォはほとんどを城の中で過ごしていたな。

 外の世界なんて見たことないかもしれない。

 ようやく手に入れた自由というわけか。


「そういう事情なら仕方ない。でも、パシティエって」

「帝国にいる頃、わたくしはお菓子を作る趣味があったんです。ささやかながら、帝国の民たちになにか貢献できないかと考えた末ですよ」


 彼女が思った以上にお菓子は大人気になり、爆売れ。

 エリザベス・パティシエの名が広まったらしい。

 その存在を俺は知らなかったけど、なにげに凄いな。


「そうだったのか」

「この島国ラルゴに来てからも、その気持ちは変わらず……お菓子職人として活動していたのです。相談もなく申し訳ありません」


 反省するスケルツォだが、それは違う。


「いや、いいんだ。スケルツォ、君は人々を笑顔にしてくれた。それは素晴らしいことだ。ストレルカもそう思うだろう」


「はいっ、スケルツォ様のお菓子はとても美味しいです! みなさん、大変喜んでいますよ」


 その言葉を聞いてスケルツォは安心していた。

 嬉しそうに微笑んですらいた。

 へえ、普段は堅苦しい表情のスケルツォがこんな風に笑うとはね。

 確かに、彼女には自由がなさすぎたのかもしれない。


「ありがとうございます。少し、気が楽になりました」

「それならいいんだ。で、聖戦のことなんだけど」

「そうですね。ラスティ様は、皇帝になられるつもりはないのですよね?」

「ないね。俺にはこの島国ラルゴを守る責務がある。主としてね」

「そうですよね。では、誰を代わりに? まさか兄上様たちを?」

「それはないな。あの二人は王位継承権を破棄した。それに、前にあったけど会心していたよ。その気はないらしい」


 少し前、帝国に行ったときに『大工』になっていたからな。あんな気持ちよさそうに働いている二人を見たら、もう信じるしかない。


「なんと……あの野望の塊だったお二人が……」


 スケルツォですら意外だったようだ。

 だよな。

 以前の二人は権力を振りかざす悪徳貴族そのものだった。


 だからもう心配はないはず。


「となると別の人を探すしかなくてね」

「それは大変ですね……」

「今のところ候補がほとんどいなくてね。けど、見つけてみせるさ」

「そうですね。帝国の為にも相応しい人物を皇帝にせねばなりません。ですが、聖戦という一大イベントで決まるので、誰がなってもおかしくありませんので……」


「ああ、その為にもスケルツォの力も借りたい」

「分かりました。なんでもおっしゃってください」


 ひとまず、スケルツォの力も借りれることになった。

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