お菓子職人の正体

「パティシエさんは、パティシエさんです!」



 トレニアさんは、それを繰り返すだけだった。

 いや、だから俺の知りたいのは名前とか素性であって……。



「ちょっと待ってくれ。それしか情報がないの?」

「ラスティ様、パティシエさんは、お菓子職人であり、貴族ですよ~」

「だ・か・ら……パティシエさんの本名を教えてくれって」

「ですから、パティシエさんです」

「なぬっ!?」


 ま、まさか……そのまさかなのか!?

 俺はずっと勘違いをしていたのかもしれない。

 その答えは次で分かった。


「パティシエさんは本名です!」

「……なんだってぇ」


 トレニアさんの情報によれば、そのお菓子職人の名は『エリザベス・パティシエ』というらしい。本当に名前だったのかよ!

 意外すぎるってーの。


「本当だったんですね……」


 隣で驚くストレルカ。

 彼女も信じていなかったらしい。

 そりゃそうだよな。

 けど、これでスッキリした。

 スコルたちが言っていたパティシエさんとは、その名の通りだったわけだ。


「で、その人はこの島のどこにいるんだい?」

「湖の小屋で住んでいるようです」

「小屋か。そこに人が住んでいたとはな」


 これで居場所も分かった。

 俺とストレルカは、さっそくパティシエさんのいる湖へ向かうことに。

 トレニアさんに礼を言って、冒険者ギルドを後にした。


 夜道を歩くが、暗くて視界が悪い。


 ので、俺は無人島開発スキルを使い『たいまつ』を生成。


 火を灯して視界が良好になった。


「さすがラスティ様です!」

「いや、これくらいは普通さ」


 ストレルカを連れ、歩いて湖を目指す。

 街からはそれほど遠くはない。

 少し歩くと見えてきた。


 湖だ。


 幸いにも、月明かりが照らしてくれていた。小屋も見えた。明かりがついているようだし、まだ起きているっぽいな。


 小屋の前に辿り着いた。


 本当に小さな小屋だ。山小屋みたいな可愛らしい家だな。


 こんな夜の時間だけど起きているみたいだし、パティシエさんの正体も気になる。


 話を聞いてみるべく、俺は扉をノックした。


 しばらくすると。



『――はい』



 反応があった。

 これは女性の声だな。

 パティシエさんは女の人だったのか。


 扉が開くと、そこには…………え?



「ちょ、なぜここにいるんだ……」

「おやおや、これは驚きました。ついに見つかっちゃいましたね」



 照れるパティシエ。

 いやいや、まさか偽名・・だったとはな。



「なにやってんだよ、スケルツォ!」



 パティシエとは帝国の守護者『スケルツォ』のことだったのか!?



「もう少しバレずに済むかと思ったのですがね。おや、ストレルカ様まで」

「ス、スケルツォ様でしたのね……知りませんでした」

「エリザベス・パティシエはいわばお菓子職人としての“称号”です。そのように呼ばれることもあるんですよ」


 そういうことだったのか。まぎらわしいな!


 それにしてもスケルツォとは……。

 帝国の皇帝陛下を守護するサンダードラゴン族にして魔女と名高いロイヤルガーディアン。その存在は今まで秘密裏にされていたが、以前はニールセン撃破の為に力を貸してもらった。



「スケルツォ、少し話を聞いても?」

「もちろんです、ラスティ様。わたくしも聖戦のことでお話がありますから」



 中へ通され、スケルツォと話をすることに。

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