ドワーフの少女

「ところでハヴァマール。そのルサルカさんって誰だなんだ?」

「良い質問なのだ、兄上。この島国ラルゴに最近移住してきたドワーフ族の人なのだ!」


 ドワーフ族か。普段は洞窟だとか地下に住んでいる。

 とても力持ちで、鍛冶屋だとか生業にしている種族だ。

 そうか、このラルゴにも移住者がいたんだな。


「その人のお金を取り戻していたんだな」

「うむ。ルサルカさんは盗まれたことを気づかずに家に帰ってしまったのだ」


 なるほど、さっきの盗賊はスキル『スティール』を悪用してお金を奪ったらしい。

 スティールと言えば、対象のお金やアイテムを盗む盗賊専用の特殊スキル。そりゃ、気づかないわけだ。


「よし、そのルサルカさんに会いにいこう。ハヴァマール、場所は分かるか?」

「……うっ」


 ハヴァマールはなぜか顔を青くする。

 ま、まて……まさか!


「おい、分からないのか?」

「知らないのだ……。余はたまにルサルカさんと話すだけなのだ」


 家までは知らないのかいっ。

 だが、スコルが手を挙げた。


「あ、あの~、わたしでよければ案内しますよ~」

「スコル! ルサルカさんの家を知っているんだ?」

「ええ。教会へ祈りへ捧げに行くときによく会うんです」


 そういえば、スコルには毎日の日課があったな。その時に、ルサルカという人物と出会っていたんだな。いったい、どんな人なんだろう。


「案内を頼むよ」

「はい、ラスティさん!」


 スコルの後についていく。

 街から少し外れた場所に小さな集落があった。そういえば、離れに住居を構える住人もいるんだっけな。


 森に近い位置に小さな家があった。

 丸太で組まれた木造建ての落ち着いた家だ。


 少し歩くとまきを割っているドワーフの姿があった。


 ……あの人か。



「――って、女の子じゃないか」

「そうなのだ。兄上、ルサルカさんは女の子なのだ」



 これはビックリした。

 俺やスコルよりは年上っぽいけど、限りなく年齢は近そうだ。

 こちらの気配に気づくルサルカは、パッチリした大きな赤い瞳で俺を見つめた。



「……あーしの金を盗んだのはお前かああああああああああ!!」


「なあにいいいいいいいいい!?」



 ブンッと思いっきり斧を投げつけてくるルサルカ。マジかよ!!


 すぐさま俺はゲイルチュールを召喚して防御した。


 斧は俺のつるはしによって弾かれ、遠くへ落ちた。いきなり、あっぶねーな。



「ハァ……ハァ……」

「ルサルカさん、誤解なのだ! 兄上は犯人ではない! ほら、お金は余が取り戻してきたのだ!」


 ハヴァマールは、ルサルカにお金に入った袋を手渡した。


 だが。


 ルサルカは口から血を吐いてぶっ倒れた。――って、ええッ!?


「きゃっ!! ラスティさん、ルサルカさんが倒れちゃいました!」

「お、落ち着け、スコル! あれは明らかに病気だ。君の治癒魔法でなんとかしてやってくれ」


「そ、そうですよね」


 俺はスコルと共にルサルカの元へ駆け寄った。彼女の顔は顔面蒼白で息も浅いように見えた。こりゃ、まずいぞ。


「スコル、ヒールだ」

「は、はいっ……! ヒール!」


 魔力を流し、ルサルカを治癒していく。

 やがて落ち着きを取り戻し、早くも意識を取り戻していた。さすが、スコルだ。



「…………ん。ここは」

「気づいたか」

「……あーしを助けてくれたのですね」

「ああ」

「お金も取り戻してくれたとは……あーし、恩人になんてことを」

「いいってことさ。それに俺ではなく、ハヴァマールに礼を言ってやってくれ」


 そう、もとはといえばハヴァマールのおかげなのだから。


「余、余は別に……」

「……あ。ハヴァマール、いたんだ!」

「気づくのが遅いのだ!! もぅ、ルサルカさんは相変わらず天然なのだ……」

「ごめん。持病のせいで意識が朦朧もうろうとしていたんだ」


 申し訳なさそうに謝罪するルサルカ。持病か……。血を吐くくらいだから、結構重い病気なのかな。


「俺たちに協力できることがあれば、なんでも言ってくれ」

「あなたは……? あ、もしかして」

「俺はラスティ。この島国ラルゴの主。で、こっちの金髪エルフはスコル。あと知っていると思うけど銀髪猫耳が妹のハヴァマールだよ」


 そう紹介すると、ルサルカは土下座していた。



「も、も、申し訳ございませんでしたあああああああああああ!!」



 俺が主と気づいてブルブル震えていた。

 おいおい、そんなに戦々恐々としなくとも……。



「いいってことさ。それより、ルサルカさんの身の方が心配だよ」

「あーしなんてゴミは放っておいてください! どうせ余命幾ばくかなのですから」

「良かったら、詳しく聞かせてくれないか」


「……実は、あーしの家系は昔から病持ちの短命なのです。なぜか分かりません。医者にも原因不明と言われてしまって……お手上げで……」


「原因不明……」


「なので、せめてこの平和な島国で余生を過ごそうかと」


 そういう理由があったとはな。どうやら、ルサルカはひとりぼっちで暮らしているようだった。ハヴァマールがたまに気にかけていてくれているようだったが。

 でも、そうか。

 ルサルカは大変な思いをしているんだ。


「よかったら、城へ来ないか? その病気のことも分かるかもしれないし」

「ほ、本当ですか、ラスティ様!」

「もちろんだ。全力を尽くすよ」

「ありがたき幸せです……! あーし、なんでもしますのでよろしくお願いしますっ」


 元気が出たのか明るい笑顔を見せてくれた。

 俺とスコル、そしてハヴァマールと握手を交わし、城へ戻ることに。

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