盗賊の二人組

 どうするべきか検討していると、シベリウスが部屋に入ってきた。


「やはりここにいたのか」

「シベリウス!」

「ひとつ言い忘れていた」

「……なんだ?」


 シベリウスは、ルドミラと挨拶を交わしつつも意外なことを教えてくれた。


「ラスティ、君の兄上たちも聖戦に参加すると聞いている」

「馬鹿兄貴達が!?」

「まあ、こんなイベントでもない限りはチャンスはないだろうからね」

「おいおい。反省して更生したかと思えば……」


 もともと兄貴達は帝国を追い出され、ラルゴに住みついてきた。あれだけの悪事を働いてきたんだ……当然だけど。

 しかし、もうドヴォルザーク帝国とは関わらないと思っていたんだが、そうでもなかったらしい。



「というわけだ。僕はそろそろ戻るよ」

「早いな。もう少しラルゴにいないのか?」

「これでも上級監督官だからな。一応、仕事はあるのさ」


 妙にカッコつけてシベリウスは去っていく。帰りはエドゥのディメンションポータルで一瞬か。まあいい、どちらにせよ俺たちも後で追いつこう。


「さて、俺たちも行くか。ルドミラ、俺は候補を探しにいく」

「分かりました。もし困ったことがあれば言ってください」

「ああ」



 部屋を後にし、俺はスコルを連れて騎士団の外へ。

 そのまま街の方向を目指した。


 のどかな道を歩いていく。


 周囲は農園など畑が広がり、自然豊かだ。定住している民たちが農作物を育てている。ペットモンスターも手伝っている様子がうかがえた。



「空気が美味しいですね、ラスティさん」

「そうだな、自然に囲まれて治安も良くて……こんな平和がずっと続けばいいな」

「わたしもそう思います。でも、帝国のことが心配です……」


 やはり、スコルも気掛かりらしい。

 聖戦が始まる以上、ラルゴも無関係とはいかない。この平和が乱されるかもしれないというのなら、俺は先手を打たなければ。


 街へ向かい、冒険者ギルドへ。


 いつも以上に活気があり、混雑していた。


「へえ、盛況だな」

「凄い人ですね。何十人いるのでしょうか」


 行列が出来る程に冒険者であふれていた。対応に追われる受付嬢たち。その中にトレニアさんの姿もあった。こりゃ、邪魔しちゃ悪いな。


「仕方ない。他をあたろう」

「そうですね。トレニアさん忙しそうですし」


 更に街を歩き続けていく。

 少しすると裏路地で怪しい動きをしている集団を見かけた。……ん、なんだ?

 気になって向かってみると、二人の男達が叫んでいた。

 まるで誰かに因縁を吹っ掛けているみたいな。


「――この女ァ! よくも俺たちの金を盗んだな!」


 えっ? 盗み……?


 よく見ると壁際に追いやられている銀髪で猫耳の女の子がいた。ん~…、どこかで見たことがあるような。――って、うぉい!!



「愚か者! このお金はもともとルサルカさんのものなのだ! お前たちが盗んだのだろう!!」



 この声はハヴァマールじゃないか。



「おーい、ハヴァマール。なにやってんだ」

「あ、兄上!? なぜここに」

「お前こそ、なんでガラの悪そうな連中に絡まれているんだよ」

「こ、これにはワケが! 余はルサルカさんの為にお金を取り戻していたのだ」

「そうか、それなら仕方ない」

「信じてくれるのだ!?」

「あたりまえだろ。お前は俺の妹なんだから」

「……兄上」


 じわっ涙目になって安心するハヴァマール。もちろんだ。もちろん、信じる。というか、男達の方が明らかに“盗賊”くさいなんだがな。


「というわけだ。二人とも、俺の妹をイジメないで欲しいな」


「んだとぉ……!? このガキ」

「いきなり現れてテメェーはなんだ!」


 二人とも俺を知らないらしい。

 つまり、観光客として訪れているようだな。

 やれやれ。少し観光業に力を入れるとこれだ。観光を装って犯罪に手を染める者もいる。さすがに見破ることは難しい。

 けれど止めることはできる。そして、追放することも。


 俺は魔力を右手に込め、小さな雷を帯電させた。


 バリバリと音を立てて威嚇する。



「大人しくラルゴから出ていけば痛い目を見なくて済む」



「あぁ!? 調子乗るんじゃねぇ!!」

「おい、このクソガキをやっちまおうぜ!!」



 短剣を抜き、脅してくる二人。

 面倒だ、気絶させてやる。



「ライトニングボルト!!」



 殴る動作で風属性魔法を放つ俺。嵐となった稲妻が二人に命中して、ビリビリにしてやった。



「「ぎゃあああああああああ!!!」」



 一瞬骨が見えるほどに感電して、ついに倒れた。

 よし、いっちょあがり。


 手を払っていると、ハヴァマールが飛び込んできた。



「兄上! 兄上助かったのだぁ!!」

「無事でなによりだ。というか、ハヴァマールが他人の為に行動しているとは思いもしなかった」

「余だってラルゴの為になにかしたいのだ。だから、今回は善良な市民を守るために」


 ハヴァマールもそういう風に考えてくれるようになったんだな。それはとても嬉しいことだ。


 その後、俺は観光客を装っていた二人組を“追放処分”とした。

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