大神官の運命とエルフの聖者

 廃墟と化した建物。

 そこに転がる無数の遺体。ほとんどが女性エルフだ。


「ひでぇことしやがる……」

「ラスティさん、これはあんまりです……」


 スコルは、あまりに凄惨な現場にショックを隠しきれずにいた。今にも泣き出しそうで、俺は彼女を抱き寄せた。


「オークマザーの憎悪と殺意は本物だった。ここまでするなんて……」

「うぅ……」


 これは俺がなんとかしてやらないと。


「ラスティ様、周囲にオークの気配はありません」


 エドゥが大賢者の力を使い、なにやら索敵を行っていたらしい。そんな便利なスキルまであるとはね。


「分かった。エドゥはエルフたちを守ってやってくれ」

「了解しました」


 広範囲にソウルリフレクターを張るエドゥ。これはモンスターの侵入を防ぐだけでなく、物理・魔法攻撃も防御する有能なスキル。


 これでしばらくは持つだろう。


「あ、あの……ラスティ様」

「クリス、大丈夫か? 足が震えているぞ」

「母国がここまで酷いことになっているとは……思いませんでした。それに、あのオークマザーの強さといったら……。ラスティ様がいなければ、小生はやられていました」


 クリスは満足に動けなかったらしい。

 剣を振るうことなく戦闘を終えてしまい、恥じていた。確かに、彼女はほとんど動いていなかった。よわよわ剣士の由来ってまさかな……。


 しばらくして、セインが戻ってきた。


「こちらも処理を完了しました、ラスティ様」

「よくやってくれた、セイン。期待以上だ」


 オークマザーを軽く十体は撃破していた。さすが俺の見込んだ騎士。


「いえ、僕は目に映る人しか助けられませんでした……。こんなに犠牲者が出ているのに、力及ばずです」

「全ての人を救うことはできない。だから、それが正しいんだよ」

「そう、ですね。その通りです」


 渋々剣をおさめるセイン。

 正義感が強い男なんだと俺は感じた。


 それから、俺は女性エルフたちに事情を聞いて回った。すると青髪の女性エルフが情報を提供してくれた。


「オークの襲撃は七日前から突然はじまりました。ボロディンにいる男性エルフは連れ去られ、女性エルフは殺されたり、酷い目に遭わされているんです」


 なるほど、掲示板の通りだな。


「奴らはどこから来る?」

「それが……神出鬼没でタイミングもバラバラで、いつ襲ってくるか分からないんです」


 そんな恐怖に怯えながら今まで生活していたと。恐ろしいな。


「大神官アルミダは?」

「アルミダ様は、すでに裏切者・・・・として処刑されています」

「なにぃ!?」


 ああ……そうか。アルミダは親父こと魔王ドヴォルザークと繋がっていたんだっけ。それが知れて失脚したとか何とか。それからどうなったのか知らなかった。

 そうか、すでに処刑されていたのか。


「なので現在は、アルミダ様の側近であられた聖者トルクァート様が引き継がれております」

「聖者……だって?」

「はい。自らを聖者と自称しております」


 自称ねぇ……。

 とりあえず、アルミダの後任としてその聖者が国を動かしているって感じかな。

 でも待てよ。

 そんな聖者と名乗るほどのヤツが、なんでオークを放置しているんだよ。おかしいだろ。


「聖者トルクァートはユーモレスク宮殿に?」

「その通りです。聖者様は厳重な警備で守られており、宮殿に篭もっています。なので、我々民は見捨てられたのだと……そう思う者が多いのです」


 だろうね。こんな事態になっているのに、兵すら出さないなんて。その聖者ってヤツは、とんでもない野郎だ。


「ラスティさん、そのトルクァートさんって人なんですけど……」

「知っているのか、スコル」

「……はい。小さい頃に一度だけ見た事があります」

「そうなのか?」

「でも、その人は……エルフではなかったはず」

「なんだって?」

「子供の頃の記憶なので自信がありませんが……」


 こうなったら、直接ユーモレスク宮殿へ乗り込むしかないだろう。その聖者とやらに会い、この状況をなんとかしろと訴えかけるしかない。


「決まりだ。宮殿へ行く」


 俺は、みんなに指示を出した。

 だが、エドゥが手を挙げた。


「ラスティ様、自分のソウルリフレクターは移動中でも問題はありません。しかし、全員がここを離れては大変でしょう」

「そうだな。ここはエドゥと……」


 セインに残って貰おうかなと思ったが、クリスが名乗り出た。


「す、すみません。小生でよければ、救出作業くらいなら手伝えます」


 今にも泣き出しそうなクリスがそう言った。そうだな、彼女はそういう作業の方がいいだろう。


「分かったよ、クリス。エドゥと残ってエルフたちを助けてやってくれ」

「申し訳ないです」

「いや、人助けも立派な仕事だよ。頼んだよ」

「はいっ……!」


 この場をエドゥとクリスに任せた。

 俺とスコル、セインはユーモレスク宮殿へ向かう。


 宮殿へ行くのは久しぶりだな。


 実質出禁になっているはずだが、もうアルミダがいないのなら関係ない。それに、こんな緊急事態だからな。


 トルクァートとやらに会って、まずは話をしてみよう。

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