結婚を迫られた帝領伯令嬢
クリスのことはスコルに任せ、俺は騎士団の様子でも見に行こうとした。――のだが、通路の奥からストレルカが走ってきた。
「ラスティ様、ラスティ様~!」
「ど、どうした。そんな慌てて」
「わたくし、また結婚を迫られてしまって……」
「なっ、また!? またお父さんか?」
おいおい、以前、ストレルカの父親には言ったはずだけどな。あれから、理解してもらったはず。
「いえ、違うのです。今回は島国ラルゴの住民の方です」
「なるほど、お父さんは関係ないのか」
「はい。なので個人的な問題といいますか……。なぜか婚約していることになっているんです」
「んな! どういうことだよ」
説明を求めるとストレルカは、詳細を明らかにしてくれた。どうやら、セインという男が一方的にストレルカに好意を抱いているようだった。
「しかも、ルドミラ様の騎士団に所属している騎士なのです」
「……おいおい、マジか」
よりによって騎士団の騎士とはな。
そりゃ、この城と騎士団は距離も近いからな。騎士自体が城に常駐することもあるから、必然的にストレルカと会うこともある。
そもそも、ストレルカが騎士団へ赴くこともあったようだ。
騎士たちの為にご飯を作ってあげたりしていたそうな。それは知らなかったな。
「セインさんは、とても良い人なのですが……。でも、わたくしは、ラスティ様一筋ですので……」
断ったみたいだけど、セインは退かなかったという。なるほど、これはちょっと難しい問題になるかも。
とにかく、一度そのセインという騎士を見に行くか。
「騎士団へ向かう」
「で、ですが……」
「いいんだ。ラルゴの主として、騎士団の様子を見に行こうと思っていた」
「分かりました。ですが、その……」
「大丈夫。話すだけだから」
ストレルカを連れ、騎士団へ向かった。
歩いて直ぐに到着。
城に匹敵する広さを誇る建物。
門番の騎士が俺の顔を見るなり、ビックリしていた。
「ラ、ラスティ様……どうぞ、お通りください!!」
普段はほとんど来ないからな。
中へ向かうと、ちょうど稽古をしている姿が見えた。今は木刀を使い模擬戦をしているようだ。
へえ、ルドミラが直々に教えているのか。
相手は、紫色の髪をした若い男性騎士。
あの剣の達人であるルドミラに対し、余裕の表情で突きを回避していた。やるようだな。
「セイン、あなたは確かに騎士団の中で秀でている。しかし、肝心なところで詰めが甘い……!」
竜巻のような素早さで、ルドミラは木刀を振るう。さすがの猛攻にセインは顔をしかめていた。これはキツいな。
って、あの男がセインかよ!!
「ありがとうございます、ルドミラ様! ですが、僕は負けません!!」
セインは怯まず木刀で反撃。
――しかし、ストレルカの存在に気づいて隙だらけになった。
「よそ見をするとは愚か者!」
その隙にルドミラは、セインの頭上に一撃を入れた。さすがの彼もぶっ倒れて――気絶した。ルドミラも容赦ねぇな。
「大丈夫か、コイツ」
「ようこそです、ラスティくん。おや、ストレルカさんまで」
「捗っているようだな、ルドミラ」
「おかげ様で騎士団は大きく成長しております。現在、百名に迫る勢い……!」
そこまで大きくなっていたとはなあ。
「ところで、この地面に倒れているセインだが」
「ああ、セインに用ですか。この男は最近入団した新米です」
そうだったのか。
それにしては素晴らしい剣技だった。
ルドミラの技量に迫る勢いといっても過言ではなかった。……結果的には油断してやられてしまったわけだが、しかし、騎士としての可能性を感じた。
数々の騎士や聖騎士を見てきた俺が感じるのだから、間違いない。
「セインについて教えてくれ」
「それは構いませんが……そうですね。彼はドヴォルザーク帝国からの移住者。家族は母と二人暮らし。努力家で真面目ですね。態度はよろしいのですが、ストレルカさんに夢中のようで、このように隙が多い。
ですが、それでも剣の才能が垣間見えます。この私を超える可能性が」
ルドミラがそこまで言うとはな。
ふむぅ、ちょっと興味が沸いてきた。
回復を待とうとしたが、ストレルカがセインの元へ向かい、回復魔法を施していた。
傷と気絶が回復し、セインは目を開けて気づいたようだった。起きたか。
「……ん、ぁ。ここは……! うわっ、ストレルカ様!!」
ビックリしてセインは距離を置く。ビックリしすぎだろう。
「セイン、話がある」
「……え、あなたはラスティ様では!?」
「さすがに知っているか。その通り、今日はお前に会いに来た」
「な、なぜ……!?」
状況がまったく飲み込めていないセインは、呆然と立ち尽くす。
ストレルカへの求婚はともかくとして、俺は個人的に彼が興味があった。少し、試してみるか――。
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