よわよわエルフの剣士さん

 翌日、朝を迎えて俺は食堂でのんびりしていた。

 帝国製の紅茶を味わっていると、慌しくアルフレッドがやって来た。


「ラスティ様、おくつろぎ中のところ申し訳ございません。お客様でございます」

「む、マジか」

「よわよわエルフの剣士と名乗る者が、ラスティ様に会いたいと」


 本当に到着したか!

 半信半疑ではあったものの、ちゃんと来てくれるとはな。


「通してやってくれ。もともと会う予定があった」

「はっ、では直ぐに」


 アルフレッドはいそいそと走っていく。

 しばらくするとエルフが現れた。

 黄緑色の美しい髪をした女性エルフだ。


「よわよわエルフの剣士さん……?」

「そ、そうです! 小生がよわよわエルフの剣士です!」


 しょ、しょうせい?

 自分のことをそう呼ぶ人は珍しいな。異国の剣士みたいだ。

 それにしてもスコルに並ぶ美貌だな。

 まさか女の子だとは。


「へえ、こりゃ驚いたな」

「意外でしたかね」

「てっきり男かと」

「掲示板での名せいか、よく言われます。本当の名はクリス・ガードナーと申します」


 彼女はそう名乗った。

 響きの良い名前だ。


「じゃあ、クリス」

「ええ、そう呼んでください。こちらはラスティ様と」

「クリス、教えてくれ。ボロディンはヤバいのか?」

「よくぞ聞いてくれました。現在のボロディンはオーククィーンに支配され、オークマザーが次々に現れ……男性エルフと捕らえて……そ、その」


 クリスは青ざめて言葉に詰まる。

 ま、まて、そんな酷いことになっているのか。


「教えてくれ」

「……子孫を残そうとしているのです」


「マ、マジかよ」


 俺の予想を超えていた。

 イメージとしては、ただのオークが残虐なことをしていると思った。それに、あるとしても男オークが女エルフを襲うみたいな構図を描いていたんだがな。

 まさかその“逆”とは驚きだ。


「しかも酷いことに、女性エルフは捕らえられて食べられちゃうんです。美肌にいいとかで」

「どちらにせよ、酷いな」


 エルフの国ボロディンが、そんな恐ろしいことなっていようとは。

 これは直ぐに助けないとオークの国になってしまう。

 それだけは絶対に阻止せねば。


「詳しい情報をありがとう。これで目標は定まった」

「ラスティ様、今日行かれるのですね?」

「いや、明日だ。悪いんだが、今日は一日休む」

「なにか理由が?」

「この前、共和国に行ったばかりでまともに休んでいないんだ。島のことも疎かになっているからね」

「そうでしたか、そんな状況なのに無理いって申し訳ないです」


 しゅんとするクリス。

 一刻も早くボロディンを救って欲しいのだろう。

 直行したいのは山々なのだが、アルフレッドに怒られてしまうからなぁ。


「すまん。でも、持ちこたえてもいるんだよな?」

「はい。幸いにも小生のような剣士が大勢いますし、魔法使いも多いので」


 抵抗はしているらしい。

 けど、時間の問題だろうな。

 実害も出ているようだし。


 話は終わり、クリスも一緒にボロディンへ行くことになった。


 俺はクリスに紅茶を出し、パーティに迎えることに。まったりしているとスコルが現れた。


「おはようございます、ラスティさん。……って、エルフ」

「ああ、こっちはクリスさん。例のよわよわエルフの剣士さんだよ」


 そう説明するとスコルは納得していた。


「来られていたんですね。クリスさん、よろしくです」


 ぺこぺこと丁寧に頭を下げるスコル。


「せ、聖女様! 頭を下げないでくださいませ!」

「ご、御存知でしたか。恥ずかしいです」

「もちろん、知っています。だって、スコル様は有名人ですから!」


 こうしてエルフ同士の会話を見るのは、実は初めてかもしれないな。


「でも、わたしはただのスコルなので」

「いえいえ、恐れ多いです! 神々しいです! あぁ、なんとお美しい……!」


 クリスのヤツ、スコルを拝んでいるぞ。やっぱり、そういう存在なんだな。

 俺は帝国製の紅茶を飲んで、二人を見守った。

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