古代の魔法石【エンシェントストーン】

 しばらくするとトレニアさんが戻ってきた。美味しそうなティーセットを持って。


「はい、どうぞ。ラスティ様。それとアルフレッドさんも」

「ありがとう、トレニアさん」


 俺はカップを受け取り、香りを楽しんだ。

 これはドヴォルザーク帝国の紅茶だな。

 よく飲んでいたから分かる。


「私の分までわざわざありがとうございます」


 普段は給仕しているアルフレッドが今日はくつろいでいた。たまにはいいだろう。人間、適度に体を休めないと壊れてしまう。無理はよくない。


「ところで殺人ギルドの件ですが……」


 トレニアさんが例の件を気にしていた。

 そうか、この冒険者ギルドでも噂になっていたんだ。当然だろうけど。

 となると安心させてやる為にも教えてやった方がいいな。


「その件は片付いた。海底ダンジョンに二人の犯罪者がいた。でも、俺が片付けたからもう安心だよ」

「そうでしたか。さすが、ラスティ様です……!」


 キラキラした瞳で見られ、俺は少し照れた。


「だ、だからね、これからは島の開発を進めていこうと思うよ。このギルドはどうだい?」

「おかげ様で毎日忙しいですよ~。皆さんダンジョン攻略に躍起で、やりがいがあります。ただ、人手不足なので人員スタッフが欲しいところですね」


「その問題は解決してやりたい。ちょっと考えてみるよ」

「ありがとうございます、助かります!」


 彼女には随分とお世話になっている。普段のお礼の為にも、なにかしてやりたい。


「こちらこそ。他には困っていることはないかい?」

「他に、ですか。う~ん……あ、そうです! ……ですが」


 手を叩くトレニアさんは何か思い出したようだ。けど遠慮気味だな。しかし、島の主としては見過ごせない。というか、トレニアさんの願いならなんでも叶えてやりたい。


「なんでも言ってくれ」

「本当に良いのですか?」

「まずは聞いてみてから」

「……分かりました。実は『古代の魔法石エンシェントストーン』が欲しいんです!」


 聞いたことのないアイテム名に、俺は頭上にハテナを浮かべた。


古代の魔法石エンシェントストーン?」

「そうなんです。その魔法石があればワープポータルの触媒が“無限”になるんですよー!」


 そういえば、ワープポータルのスキルを使うには触媒が必要だ。通常、ルーンストーンを使う。それが意外にも高価なんだよな。

 賢者が作り出すものらしいが、沢山は作れないので流通量が限られているようだ。

 だが、トレニアさんの言う『古代の魔法石エンシェントストーン』が一個あれば、無限にワープポータルが使えるようだ。


 それどころがストーン系触媒のスキルでは、ルーンストーンが不要になるらしい。なにそれ、便利すぎる!


「へえ、そんな石があればコストを抑えられるよな」

「だから欲しいのですよ~。ルーンストーンは十個セットで、ヴォルムゼル銀貨一枚も必要なんです……」


 銀貨一枚だって!?

 結構高いな。


 騎士が使うロングソード二本は買えるぞ。


「それだけで赤字になっちゃうな」

「はい。だから欲しいのです。しかも、グラズノフ共和国の幻影ダンジョンにしか存在しないんです」


「グラズノフ共和国だって? マジか」

「しかも高レベルでないと攻略が難しいのです」


「ふむ。分かった、トレニアさんの悩みを解決しよう」

「本当ですか!?」

「もちろんだよ。ちょうどブレアに挨拶をしようとも思っていたし、俺が行ってくる」

「わぁ、ありがとうございます。ラスティ様は本当にお優しい」


 ぎゅっと手を握られ、俺は顔が熱くなった。

 ……こ、これは恋してしまう。


 アルフレッドのヤツ、ニヤニヤとこっちを見ている。……頼むから、スコルには言わないで欲しいが。


 要望を聞き終わったところで、俺はギルドを後にした。


「じゃ、またね」

「今晩は楽しかったです、ラスティ様」

「ああ、こっちも話せて良かった」


 手を振って別れ、俺とアルフレッドは城へ。

 その道中、アルフレッドが話しかけてきた。


「トレニア様は、美人で可愛いですなぁ」

「そ、そうだな」

「とても良い雰囲気でした」

「……かもな」

「彼女のラスティ様を見る目、まるで恋する乙女のようでした」


 そ、そんなはずはない……と、思いたいが。まさかな。



 城へ戻り、俺はそのまま部屋へ戻った。アルフレッドも眠たそうに戻っていく。もう良い時間だ。また眠ろう。



 自室へ戻ると、人の気配があった。



「……ラスティさん!」

「げっ、スコル! いつのまに俺のベッドに」

「とても心配したんですよ。どこへ行っていたんですか!?」


 涙目で俺を見つめるスコル。

 まさかずっと待っていたのか?

 いつから?


「ちょっと夜道を散歩しただけだ。ごめんごめん」

「寂しかったです……」

「す、すまん。ほら、一緒に寝よう」


 スコルを抱き寄せ、そのままベッドへ落ちた。スコルはぷくっと膨れて不機嫌気味。でも、大丈夫。こういう時には頭を撫でる!


「……ラスティさん、もう一人にしないでくださいね」

「悪かった。次は起こすようにするよ」

「お願いしますね。わたしは……ラスティさんと一緒が……いいんです」


 俺の胸の中で眠るスコル。

 安心した顔を見せてくれている。


 ……俺も寝よう。

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