大魔法サンダーストーム
「特殊スキル……分身か」
俺は分身したグレイを警戒した。コイツは、モーリスと違いかなりやり手だ。
「さあ、俺たちを止められるかな」
「止めてみせるさ!」
ヴェラチュールを握り締め、前進していく。今はとにかくグレイを倒す。それが先決だと感じた。
「ラスティ、この私も手伝うと言っただろう」
デオドールが放ったらしい『植物の根』が地面を這い、グレイの分身を捕まえていく。これは錬金術師のスキルか。
「ナイスだ、テオドール!」
まず一体目の分身にヴェラチュールの攻撃を加えた。
槍の一撃は凄まじく、一瞬にして分身を消滅させた。さすが俺の槍。
「い、一撃で……くそっ! 分身が減ってしまった。だがな!」
「諦めろグレイ。スコルを解放すれば命は助けてやる」
「命乞いなどするかッ!!」
手を向けてくるグレイ。また何か魔法スキルを発動する気のようだが、ルドミラが覚醒アマデウスの猛攻を繰り返し遮った。
人間離れした反射神経と重すぎる一撃。
な、なんつー動きだ。
「てやあああああああああああッ!!」
「ぐおおおおおおおお!! こ、この女ァ!!」
グレイの分身がまた減った。
これでもう残るは本体だけ!
モーリスの方も、テオドールが動いてくれていつの間にか捕らえていた。あの植物……強すぎだろ。
「これは私が独自に開発したプラントモンスターでね。私の言うことしか聞かない、可愛い植物さ」
人食い植物にしか見えない。
かなり恐ろしい形相だし、あれに食べられたくはないな。
「これで形勢逆転だな。モーリス……最後の通告だ。スコルを解放しろ」
ヴェラチュールの穂先をモーリスの喉元に突き付けた。すると彼は恐怖に怯えていた。
「……ヒッ! や、やめてくれ。命だけは……」
「早くしろ」
「わ、分かった。あのエルフを解放すりゃいいんだろ!」
ようやくアルカトラズを解除するモーリス……だったが。
「きゃあ!! ラスティさん!」
「スコル!?」
振り向くとアルカトラズが縮みはじめていた。あれではスコルが潰れてしまう!!
「モーリス、お前!!」
「フハ……フハハハハハ!! どうせ捕まっても死刑だろ。なら、ひとりでも道連れにしてやる!!」
「この……!」
処刑するしかないと思ったが、ブラッドレイが現れてモーリスの胸を槍で突き刺していた。……いつの間に。
「ぐあああああああ……!! ブラッドレイ、てめえええ……!!」
「モーリス……お前だけは絶対に許さん!! いや、グレイ……貴様もだ!!」
全身血塗れなのにブラッドレイは、槍をブン投げてモーリスの体を貫いていた。な、なんて執念だ。そこまでして妹さんの仇を……。
「がはッ…………」
直後、モーリスのアルカトラズが消失。スコルが解放された。
「スコル!!」
「ラスティさん……! 助けていただき、ありがとうございます」
抱きついてくるスコルを俺は受け止めた。良かった、無事だ。どこにもケガはない。
「いや、みんなのおかげだ」
ルドミラ、テオドール、ブラッドレイの力がなければ無理だった。まさか敵が分身するとは思わなかったからな。
これでやっと殺人ギルドの件は片付いた――そう思ったが。
「………ぐ、ぐおおおおおおおお!!」
血を吹き出すグレイが立ち上がり、俺を睨む。コイツ、まだ生きているのか……! しかも、ブラッドレイに対して剣を振るっていた。……まずい、ブラッドレイはもう立っているのがやっとだ。
また気を失いかけて倒れようとしていた。
こうなったらもう仕方ない。
ヴェラチュールの魔法スキルを発動。
「サンダーストーム!!!」
穂先から赤、青、黄色の三色の稲妻が走り、グレイを包む。バリバリと電気を浴びるグレイは、丸焦げになって煙をプスプスと上げた。
今度こそ倒れた。
「ラスティくん、そんな魔法が使えたのならもっと早く使ってくださいよ~」
「すまん、ルドミラ。このサンダーストームは消費魔力がとんでもなく高くて乱発できないんだよ」
それに、今ので威力はかなり抑えた方だ。本気を出すと街が滅ぶレベルらしいからな。
「今度こそ終わった。ルドミラ、テオドール……ブラッドレイを運んでくれ。殺人ギルドの二人はもう助からない。ここに残すしかない」
俺がそう指示するとルドミラは「了解です」と答えた。テオドールも「仕方ない、植物でグルグル巻きにしてやろう」と再びポーションを取り出していた。
ようやく帰れそうだな。
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