ダンジョン配信ができる日
風呂から出て食後――。
俺は、みんなと共に大広間でくつろいでいた。
そんな中で『世界聖書』のページをめくるエドゥがこちらにやって来た。
「ラスティ様、この世界聖書は大変興味深いです」
「確か、過去・未来・現在が分かるんだっけ」
「もちろんです。しかし、解読できるのはただ一人。エルフの聖女のみです」
やっぱりそうなんだ。
大賢者であるエドゥをもってしても解読不可能か。
俺も読ませてもらったけど、内容は意味不明な文字の羅列があるだけ。あんなミミズみたいな文字は、果たして文字なのかすら怪しいが。
「エドゥ、それをスコルに」
「そうですね。スコル様以外が持っていても意味がないでしょう」
聖書をスコルに渡すエドゥ。
「ありがとうございます、エドゥさん」
「いえいえ。こちらこそ貸していただき感謝です」
戻ってきたのが嬉しかったのか、スコルはページをペラペラとめくっていく。
「なあ、スコル。面白いページはあるのか?」
「面白いページ、ですか。う~ん……そうですね。過去・現在・未来が分かる他、不老不死や神器作成、聖書にしか記されていないダンジョンがありますね」
「そんなに?」
「他にも完全回復するポーションの作り方、未知の製造スキルなど……配信とか」
「配信?」
最後のが引っ掛かった。
聞きなれない言葉だ。
「はい。この配信というのは冒険者ギルドに与えられる権限らしいです」
「興味深いな。教えてくれ」
「では、簡単に説明しますね。この配信とは、冒険者ギルドに登録して得られる特権のようです。登録者は『チャンネル』というものを得られるようになり、配信することが可能になるようですね」
そのチャンネルがあれば、全世界のみんなに自分の見ている光景をリアルタイムにお届けできるそうだ。でも、どうやって?
それを聞くと、配信が実装された瞬間に人類には『配信閲覧』というスキルが付与されるらしい。それを選択するだけで目の前に映像が現れるのだとか。なんと不思議な能力だ。
「面白いな、それ。これからは配信の時代にしてもいいかもな。そうすれば、全世界の人々も戦争なんてくだらないことをせず、ダンジョン攻略に向くかも」
「名案ですね!」
スコルがうんうんと頷くと、みんなも賛同した。
「兄上、余もスコルに賛成なのだ。配信なんて初めて聞く言葉なのだ。世界のみんなに兄上の凄さを伝えられそうだし、面白そうなのだ」
確かに、ハヴァマールの言うことはもっともだ。
「ラスティ様、ラスティ様。わたくしもやってみたいです!」
ストレルカも興味津々だ。
他もみんな“やってみたい”と肯定的な意見が締めた。なら、止めるまでもないか。
「よし、スコル。明日にでも『配信』の権限を冒険者ギルドに与えてくれ」
「分かりました。明朝に解放しますね」
これは面白いことになったぞ。
* * *
話が終わり、俺は部屋へ戻ろうとスコルを連れて廊下を歩いていた。すると、前方からルーシャスが現れた。
「これはこれはラスティ殿」
「ルーシャス、シベリウスのことは……」
「存じておる。まさか、あのバカ息子が上級監督官の任に就くとは」
「バカ息子って、前々から思ったけどルーシャスの息子じゃないだろ」
「いや、私にとってもシベリウスは息子同然なのだ。心配なのだよ」
軽く溜息を吐くルーシャス。どうやら、苦労しているようだな。
「国の復興で大変だろうが、俺も出来る限り援助する」
「それは大変心強い。島国とはいえ、ラルゴの力はもう無視できない存在だ。今後、同盟を組めたらと思う」
「ああ、いいぞ。グラズノフ共和国も今のこの国なら認めるだろう」
「そうだな。我々も共和制に移行する時期なのかもしれぬ。だが、依然として貴族が根強い権限をもっている。簡単に変えられるかどうか」
現状維持を支持する者、クーデターを企てる者、民を扇動して暴動を起こそうとする貴族もいるようだ。俺も今後、注視していかないといけないな。
「詳しくはまた明日にでも話そう」
「了解した。……ところで配信という言葉を耳にした」
「耳が早いな。明日分かることさ」
「そうか。それならいいが。では、私はこれにて……スコル様も」
ルーシャスは去っていく。
俺たちも戻って寝ようっと。
部屋へ戻ってふかふかのベッドへ。
「ラスティさん、二人きり……ですね」
顔を真っ赤にするスコルは、潤んだ瞳で俺を見る。
「そ、そうだな。久しぶりな気がする」
「あのあの……わたし、いいですよ」
なにかを期待しているのか、スコルの声は震えていた。まてまて、こっちまでドキドキしてきた。顔が熱い。心臓がバクバクと音を立てている。
俺は……俺は。
「す、好きだ……スコル。お前のことが好きだ」
「……ラスティさん。素直に言っていただけて嬉しいです!」
もう以前の俺とは違う。
スコルを一番に幸せにしたい。
俺にとってかけがえのない存在だ。
だから、だから……。
気持ちに素直になろうと思ったんだ。
「……いつも、ありがとう」
彼女の頬に触れ、そっと口づけを。
スコルは嬉しそうに俺を受け入れてくれ、涙を零した。同時に俺は生きて帰ってこれて良かったと実感した。
これからは、もっと二人の時間を大切にしよう。
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