神聖王国ガブリエル崩壊

「お前、本気か」

「ニールセン亡き今……戦争は終わる。そうなれば、このような舞台は二度と望めない。ならば、今こそ剣を交えねば――いつ振るうというのだ!」


 ラファエルは、魔剣・クリントヴォルトを掲げた。野郎、なにをする気だ……?


 身構えていると、ヤツの魔剣の刃から魔力があふれ出し、それが無数の糸のように伸び始めた。なんだありゃ!


「主様、あれは魔剣の覚醒スキルだと思われます! 危険ですよ!」


 遠くでスコルを守るルドミラが叫ぶ。覚醒スキルだって? 嫌な予感がしていると、糸がこちらに襲い掛かってきた。


 剣から糸が生えるなんて!


 俺はヴェラチュールで全てを捌いていく。しかし、糸が絡みついてきた。しかも地面をえぐってきやがった。なんて威力!


「こんな糸!!」

「ただの糸ではない。意図・・して貴様を狙う」

「お前……それわざとか!?」


「いいや、本当のことさ。この魔剣には意思があるんだ。そうだろう、クリントヴォルト」


 剣に語り掛けるラファエル。すると、謎の声が聞こえた。



『そうでやんす。吾輩は魔剣・クリントヴォルト。千年前、ダークエルフに作られたでやすんよ』



 なんだか口調がおかしいが、突っ込んだら負けか? いや、そんなことよりも剣が喋ったぞ……。嘘だろ。



「な、なんなんだ、その剣は!」

「驚いている場合ではないぞ、ラスティ。クリントヴォルトの糸が貴様を襲う!」



 ニヤリと笑うラファエルは、糸を増幅させた。というか魔剣が。くそっ、一本、二本ならまだしも七本も生えてきている。ヘビのようにウネウネとうねるし、一本一本が生きているみたいだ。こんな魔剣は初めてだ。


 どうやって対処すれば……いや、俺の槍なら。ヴェラチュールなら負けない。



「糸がなんだ……これしき!」



 ヴェラチュールを思いっきり地面に突き刺した。すると、地面がえぐれて大きな穴があった。まるで無人島開発スキルの『落とし穴』みたいだ。

 まさか、スキルを発動してくれるのか?


「な、なに!? ――ぐあぁ!?」


 足を滑らせ、落とし穴に落ちるラファエル。まさかの事態に滑り落ちていく。かなり下に落ちたな。

 俺は更にヴェラチュールを振るった。

 槍の先端から水が勢いよく飛び出た。これはウォーター系のスキルで間違いない。



「ウォーターボール!!」

「ぐああああああああああああッッ」



 水が硬質なボールになり、ラファエルに激突していく。そのまま穂先を天に向けると、なにもない宙から『落石』が発生。やはり、無人島開発スキルと連動しているんだ。これは便利すぎる。



「落石!!」

「こ、こんな子供だましでええええ、うああああああああああ……!!」



 俺の無人島開発スキルが勝手に発動するだけではない。威力も十倍はあるように見えた。いつもより鋭さがあった。これなら勝てる。


 ラファエルは諦めずに魔剣に命令し、糸を操ってくる。しかし、俺はヴェラチュールのコンボを繰り出して糸を排除。ラファエルを追い詰めた。


 完全に抜け出せなくなったラファエルは、やがて落とし穴の中で絶えた。



「俺の勝ちだ」

「…………く、くそ。体力が尽きた」



 仰向けに倒れ、魔剣を放り出すところを見ると、どうやら敗北を認めたようだ。俺はラファエルを落とし穴から救出して捨てた。


「また挑んでくるといいさ」

「……ラスティ。ああ、お前の強さは本物だだった。あのニールセンに勝てた理由も分かったよ。お前には守るべきものがあるんだな」


「そうだ。その為にも戦争を終わらせないと」


「分かった。今回は負けを認め、神聖王国ガブリエルも終わりにしよう」

「そんなことが出来るのか?」

「もともと僕の国さ。ニールセンが支配してから、仕方なく幹部を演じていた。けど、もうその必要もない。これから建て直すさ」


 そう言ってラファエルは背を向けた。


「ラファエル……」

「ニールセンが犯した罪はあまりに大きい。神聖王国は消えてなくなるが、新しい国となってきっと復興してみせる。だが、しばらくは荒れ果てた各地を何とかしないと」


 罪を感じているのか、彼は遠くを見つめながら歩きだした。きっとあの男なら、罪を贖ってくれるだろう。そう信じたい。


 ……さて、これでようやく本当に終わった。



「ラスティさん!!」



 飛び跳ねて抱きついてくるスコルを俺は抱きしめた。



「スコル……やっと、やっと終わったよ」

「はいっ。これで世界が平和になるんですよね!」

「もちろんだ。もうニールセンはいないし、神聖王国も崩壊した。このことを戦場に知らせないと」

「はい、急ぎましょう」


「スコル、ルドミラ、俺に掴まれ」


 二人は不思議そうに俺の肩に掴まった。



「あ、あの主様。これはどういう?」

「ヴェラチュールでテレポートする」

「そんなことが可能なのですか!?」

「それが出来るっぽいんだ。ラファエルを倒してから、レベルアップしたようでな。まあ、細かいことは後だ。――テレポート!」



 直後、俺たちは転移して戦場へ。



 黒い渦が晴れていた。

 戦場だった場所は静寂に包まれ、神聖王国ガブリエルの兵は降伏し、モンスターは消え去っていた。


 そうか、もう無事に終わっていたんだな。



「待っていたぞ、ラスティ」

「ルーシャス!」


 それに、ハヴァマールとストレルカ、エドゥ、テオドール、トレニア、アルフレッド……ラルゴの勇敢な冒険者たち、ミカエルやシベリウスも健在だった。


 みんな無事で良かった……!

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