世界聖書の心臓

 +10覚醒ヴェラチュールは、白く輝く槍だった。なんと神々しい。

 これが『合成武器』……マジかよ。こんなことが出来たとは。いや、それよりもこの最強の槍があればニールセンを圧倒できるぞ。


 だが、それだけだ。

 完全勝利を得るには、スコルの世界聖書の解読を待つしかない。


 その為にも俺は、この槍で。



「そんな武器ナマクラで何ができるラスティ!!」

「舐めんな、いくら不死身でもダメージくらいは与えられる。いくぜ……!」

「なにィ!?」


 俺は、自身の最大魔力を込めて+10覚醒ヴェラチュールを思いっきり投げつけた。白い光を纏い高速飛翔する白い槍は、あれほど強大だった闇を弾き返していく。


 ルドミラと二人で力を合わせてギリギリだったのに、今はもう半分も押し返していた。こ、これが……ヴェラチュールの力。聖属性攻撃も相まって威力増大。


「いける、いけるぞ!」

「馬鹿な! 我が魔王の力が押し切られるだと! ありえん、ありえんッ!!」


 ついに逆転して、ニールセンは焦っていた。何度も何度も闇を強めてくるが、俺の槍の前にはもう太刀打ちできていなかった。もちろん、ルドミラの力もある。


 このままヤツに一撃お見舞いしてやる。



「くらえぇッ!! ヴェラチュール!!」

「――く、くッッ!! ああああああああああああああああああああ……!!」



 なんとか踏ん張るニールセンだったが、俺の圧倒的な力の前に闇は飲み込まれた。白い光がついにヤツを包み、閃光が大炸裂した。まるで稲妻だ。


 直後、スコルが叫んだ。



「ラスティさん、解読完了です!!」

「マジか! 心臓を取り出せるのか!?」

「今すぐに封印を解きますね」



 この時を待っていた。

 ヤツは少しすれば直ぐに復活するだろう。だが、この心臓を一突きにすればトドメを刺せる。



「あの、ラスティくん」

「どうした、ルドミラ!」

「ニールセンが体の半分を失っていますが、再生を始めています! しかも、憎悪を増大させていますから……復活したら、さきほどよりも強力な闇を使ってくるかもしれません」



 かなり離れた場所に体の右半分だけ残ったニールセンの姿があった。そんな状態になっても死んでいない。世界聖書の力だ。となれば、復活される前に心臓を破壊するしかない。


「スコル、頼む」

「今終わりました! これで心臓が召喚されるはず」



 すると、世界聖書が赤く光りページから『心臓』が現れた。規則正しく脈打ち、本物であることを示していた。まさか、本当に埋め込んでいたとは。



「やめろ、やめろォ!!」

「もう遅い。ニールセン、お前はここで滅びろ!」


「この私をここで殺しても……いつか、いつか闇が必ず貴様を殺す!! ラスティ、なれば地獄で会おうぞ――ぐあああああああああああああああああああああああ…………!!!!!」



 俺は、ヴェラチュールでためらいなく心臓を突き刺した。


 赤く弾ける心臓。


 同時にニールセンは塵と化し、灰となった。遺言も残せず消え去ったんだ。



 …………終わった。



 これでようやく神聖王国ガブリエルも、ニールセンも終わりだ。支配はなくなり、世界は自由となるのだ。これで帝国もラルゴも安心だ。



「よくやった、スコル! ルドミラ!」

「……ま、間に合って良かった」

「ああ、スコルのおかげだ」



 俺は、スコルの頭を撫でた。

 嬉しそうに微笑む表情を見れて安堵した。


「お疲れ様です、ラスティくん」

「ルドミラ、お前もよく駆けつけてくれた」

「勇者として、なによりも主様に忠誠を誓った家臣として尽力したまでです」


 そんな風に真っ直ぐな目で言われて、俺は鼻が高い。やはり、勇者なだけあるな。

 あとは戦場へ向かい、ニールセンの死を伝えるだけだ。


 俺は歩き出そうとしたのだが――。



 目の前に青白い光が落ちてきた。



「――なッ!!」

「まだ僕との決着がまだだ」



 こ、この男……剣聖のラファエル・フォン・ベル!


 そうか、まだコイツが残っていた。


 確かに、この男との決着はまだついていない。けれど、ニールセンは死んだ。これ以上、戦う意味なんて……。



「ラファエル、ご覧の通りお前の主は消滅した。もう戦争は終わったんだ」

「関係ない」

「なに?」


「僕はようやく戦うべき相手を見つけた」


 魔剣・クリントヴォルトを抜くラファエル。本気ということか。……けど、それでも。――いや、戦うしかないのだろう。

 この男の目は本気だ。

 純粋な戦いを望んでいる。


「ひとつだけ聞かせろ、ラファエル」

「……いいだろう」

「この戦いの果てに何を望む」

「どちらが最強か。ただそれだけだ」


 瞬間、ヤツの気配が消えた。な、なんてスピードだ。やはり、剣聖なだけある。殺気さえも感じさせない高速移動。

 けれど、俺にはヴェラチュールがある。この武器がある限り俺は最強だ。


 槍を振るうと、魔剣と衝突した。


 火花を散らしてラファエルは驚いていた。


「俺はもう以前の俺ではないぞ」

「ラスティ、これがお前の真の力か……素晴らしい。では、最強には最強の力をもって貴様を潰してやろう」


 力を解放するラファエル。そうか、これが前に言っていた……!!

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