ドヴォルザーク帝国の神

 手紙の内容はこうだった。



『ラスティよ、緊急の案件につき突然の手紙を許して欲しい。

 知っての通り、神聖王国ガブリエルが侵攻してきた。奴らは何万、何十万と兵をさし向けてきた。


 こちらには世界最強と名高いレオポルド騎士団がいる。聖騎士の精鋭がいる。だが、それでも戦力としては心もとない。


 守り切れなかった村や街も多い。ほとんどは焼き尽くされ、女子供は攫われた。

 このままでは国境を突破されるのも時間の問題だ。

 そこで君に頼みたい。


 皇帝なきドヴォルザーク帝国を救えるのは、元第三皇子・ラスティだけだ。第一も第二皇子ももう帝国いない。恐らくそちらにいるのだろう。


 それはいい。

 今皇子たちについて追及している暇なんてないのだから。


 とにかく、島国ラルゴとグラズノフ共和国の力を借りたい。力を合わせればニールセンの支配を防げるはずだ。


 もし撃退が叶ったら、ラスティ……お主にドヴォルザーク帝国の皇帝になって欲しい。そうでなくとも、帝国を導く存在となって欲しい。


 我らの現人神オーディンとなって民を、兵を導いてくれ。



 レオポルド騎士団

 ルーシャス・スナイダー』



 団長直筆の手紙とはな……。しかも達筆すぎだろう……ってそこはいいな。それよりも内容だ。


 どうやら、手紙を見る限り、苦戦を強いられているように見える。


 帝領伯は改めて俺にこう言った。



「ラスティくん。君には君しか出来ないことがある。世界を救うのなら、今しかないのでは」



「世界を救うだって……俺が?」

「オーディンは帝国の象徴。本来はオーディン神こそが皇帝の座であった。それは世界聖書にも記録されている事実だ」



 そうだったのか。

 でも、元親父にして魔王アントニンは、そんなオーディンこそを魔王として仕立て上げていた。世間の認識を強引にすり替えたんだ。


 でも、本当は皇帝が魔王だった。

 俺がオーディンの息子だったんだ。

 ハヴァマールは本当の妹。


 それが真実だ。



「俺に帝国を守る義務があると言いたいのか」

「そうだ。ラスティくん、君は帝国領全てを守らなければならない。島国ラルゴも元は帝国の領土なんだ。今は言ってしまえば、不法占拠している状態なのだよ」


「それは違う。あの島国はどこにも縛られない……自由な島なんだ。楽園なんだ」


「だとしても、いずれニールセンが侵攻してくる。それが運命だ」



 帝領伯の言う通りだ。

 結局、ドヴォルザーク帝国が落ちれば、今度はラルゴかグラズノフ共和国が標的となるだけの話。


 どのみち俺は動かなきゃいけないってことか……。



「ラスティ様、今決めなくてもよろしいのですよ。よくお考えになってからでも遅くはありません。そうでしょう、お父様」



 ストレルカが気を使ってくれた。

 だが、悩んでいる暇もないだろう。


 昨日はニールセンや親衛隊が攻めてきた。


 それが紛れもない事実。


 罪のない人や建物に襲い掛かり、破壊の限りを尽くした。助けられなかった人もいた……全てを失った人もいた。


 それが今はドヴォルザーク帝国全体に波及しようとしていた。



「いや、やるよ。俺は」

「で、ですが……ラスティ様」


「ストレルカ、俺はみんなを守りたいんだ」

「本当によろしいのですね」


「このことをみんなに伝えたい。招集をかけて欲しい」

「分かりました。大精霊オケアノスの力を使い、皆さんに言葉を伝えます」



 どうやら、精霊を通してテレパシーが送れるようだ。

 みんなに俺の思いを伝えて……今日もドヴォルザーク帝国へ向かう。


 決着をつけにいく。

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