団長の手紙

「それじゃ、俺は行くから」

「分かりました。なにか困ったことがあれば、なんでも言ってくださいね」


 ストラは微笑んで一礼すると去っていった。礼儀正しいな、



 俺はそのまま風呂を目指し、俺はひとりで極楽の湯を楽しんだ。



 * * *



 スコルが俺の部屋に戻ったらしい。

 自室へ戻り合流を果たした。


「スコル、戻ったぞ。大丈夫か」

「はい。おかげさまで」


 すっかり意識を取り戻したスコルは、元気そうに返事をしてくれた。

 良かった、エドゥのヒールで体調も回復したようだな。


「しばらくはゆっくりするんだ。俺が一緒にいてやるから」

「とても嬉しいですっ。……で、でも」

「どうした」


「お風呂入れなかったので……うぅ」


「どうしても入りたいなら、俺が護衛するけど」

「本当ですか! それならぜひ」

「おう。さっき別の場所で俺も入ったんだ。そこへ案内する」

「わぁ、楽しみです」



 俺はスコルを連れて再び極楽の湯へ。


 今回は近くで見守ることにした。

 もうオッフェンバックみたいな脅威もないだろうし、大丈夫だろう。


 スコルとの会話を楽しみながら、入浴は終わった。


 再び部屋に戻り、まったりタイム。

 とはいえ、もう寝る時間だが。


 スコルと共に、ベッドに横になる。



「そろそろ寝るか」

「そうですね。今日はもう……眠くて」



 ウトウトするスコルは、早い段階で就寝。もう眠っていた。寝るの早いなぁ。

 俺も疲れた。寝よっと。



 ――翌日。



 目を覚まして起き上がると、スコルはまだ眠っていた。こうして二人きりで過ごすのも悪くないなぁ。

 戦争が起きていることなんて忘れてしまう。


 平和だけが続けばいいのにな。


 けれど、世の中はそうではない。


 悪い方向ばかりに事態は向く。


 全員が同じ輪に入れるわけではない。

 全員が平等ではない。


 そんな世界を強く渇望するニールセンは、支配を続けるだろう。


 一刻も早く止めねばならない。

 ニールセンの支配を。


 ラルゴやグラズノフ共和国の為にも。



 そう決意を固めていると、扉をノックする音が響いた。



「誰だ?」

『朝早く申し訳ありません。わたくしはメイドのフィナと申します。ラスティ様を呼ぶように言われまして、お迎えにきた次第です』


「なるほど。相手は?」

『ストレルカ様です。大至急とのことです』


「マジか。分かった……今すぐ行く」



 俺は直ぐに身なりを整えて廊下に出た。

 そこには真面目そうな若いメイドがいた。昨日のストラと歳は変わりなさそうな、少女だ。


「こちらへどうぞ」


 スコルはまだ眠っているし、そっとしておくか。

 メイドの案内を受け、俺は一階へ下りていく。そっちにいるのか。


 城の一階にあるエントランスへ。

 談話テーブルがあり、そこへ向かうと……ストレルカがいた。なんだか深刻そうな顔をしているな。


「あ……ラスティ様。おはようございます」

「おはよ、ストレルカ。朝早くからどうした」


「それが……大変なことに」

「大変なこと? ――あ!」



 よくみると、ストレルカの前の席に見覚えのある顔がいた。


 あの厳ついおっさんはまさか……ゲルンスハイム帝領伯か。ストレルカの父親だ。


 確か前にトラブルが起きて、それっきりだったな。



「…………」



 ゲルンスハイム帝領伯は俺を睨む。

 いやいや、俺をそんな睨まれても困るんだがな。


「グラズノフ共和国まで来られてどうされたのですか」

「ラスティくん、悪いが娘は……ストレルカは返してもらうよ」


「俺は覚えていますよ、帝領伯。お前の顔など二度と見たくないと、ストレルカに言い放ったことを」


「……ぐぐ! それはそれ。これはこれだ」


「都合が良いですね。けど、俺はストレルカの意思を尊重しますよ。それに、今は争っている場合ではないのでは。ドヴォルザーク帝国では戦争が起きているんですよ」


「……むぅ」



 なんだか納得いかなさそうな帝領伯は、渋い顔をしていた。本当、なにしに来たんだよ。



「お父様、ラスティ様と言い争うつもりなら、今すぐお帰り下さい」

「ストレルカ……! お前とは後で話がある。いいな」


「お話? 残念ですが、わたくしとお父様に話すことなんてありません。わたくしは、ラスティ様と幸せになると決めたんですから」


「――――ぐぉぉ」



 心にダメージを追っているのか、帝領伯の表情が歪みまくる。……娘のことを好きすぎだろ。けど、それは当たり前か。


 普段は辛辣ではあるけど、本音は家に帰ってきて欲しいんだ。


 だけど、子供はいつまでも子供ではない。


 アルフレッドが言ってくれたように。



「帝領伯。わざわざ共和国に来たということは“別件”があるのでしょう」

「……やれやれ。この私が大役を担うことになろうとはね」


 諦めた風に帝領伯は、懐に手を伸ばして何かを取り出した。


「手紙?」

「そうだ。これはドヴォルザーク帝国のレオポルド騎士団ルーシャス・スナイダー団長の手紙だ。ラスティくん宛てさ」


「俺かよ!」



 そうか、重要な手紙を手渡すためだったのか。

 俺は受け取り、さっそく目を通していく。


 すると、そこには……。



 なん、だと……!?

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