グラズノフ共和国の“声”

 死神を撃破した俺たちは、城へ戻った。

 城内では、ハヴァマールとストレルカがソワソワして待っていた。


「あ、兄上! 心配したのだぞ!!」

「ラスティ様、いつの間にいなくなっていたのです!」


 飛びついてくる二人を俺は受け止めた。

 心配させてしまったな。



「悪い、ハヴァマール、ストレルカ。いきなり、ニールセンが襲ってきたんだ」


「「ニールセンが!?」」



 俺は、少し前に起きたことを二人に話した。終始驚いて、街の被害にも困惑していた。


「そういうことなんだ。今はブレアが指揮を執っているから、俺たちは見守ることくらいしか……」



 だが、ストレルカは違った。

 凛とした表情で俺を見据え、まるで祈るかのように言った。



「まだ終わっていません。今、共和国は深く傷ついているのです。だから、ラスティ様のお力が必要です」


「俺の?」


「ラスティ様には建築物を建てたり、修復する奇跡の力があるのではないですか」



 ……言われてみればそうだった。

 今必要なのは共和国の力だ。


 これ以上、失わせるわけにはいかない。


 この『無人島開発スキル』は、なにもラルゴでしか使えないわけではないのだから。



「俺は現場へ戻る。みんなを救う」

「あ、兄上……だが!」

「ハヴァマール。お前がくれたこの力を人々に役立てる時が来たんだよ」

「……兄上。ああ、そうだな。兄上はそうでなければ」


 嬉しそうに微笑むハヴァマール。

 普段あまり見せない表情に、俺は嬉しかった。



「じゃ、みんな俺は行く! 全員、城で待機しているんだ」

「だめです。ラスティさん」



 手を握ってくるスコル。

 まるで俺を逃がさないと視線を送ってきた。



「そうですよ、スコルさんの言う通りです。わたくしも向かいます」

「ストレルカ!?」


 今度はストレルカが腕に抱きついてきた。



「兄上はいつも、余たちを置いていく! もうそうはさせないのだ!」



 ぴょんと飛び跳ねるハヴァマールは、俺の肩に飛び乗ってきた。まさか、肩車ぁ!? 軽いからいいけど。


 エドゥは、サムズアップして「行きましょう」と、なぜかドヤ顔。仕方ないな。みんなで向かうか。



 テレポート開始……!



 * * *



 現場へ戻り、ブレアと合流した。


「戻って来たぞ、ブレア」

「ラ、ラスティ!? なぜ戻ってきた」


「ブレアから譲り受けた鉄なんだけどな、この共和国に役立てたい」


「な、なんだって!?」

「見ての通り、街に被害がでまくりだ。このままでは民が困る。そうだろう」


「し、しかし……」

「良いんだ。鉄は元々この共和国のモノだ。それを俺の島だけに使うだなんて出来ない。グラズノフ共和国が必要なんだ。だから」



 俺は瓦礫がれきとなった家に手をかざす。


 無人島開発スキルを発動して、鉄などの材料を消費。家を修復した。


 家は一瞬で元通り。



「なッ! 崩れ落ちていた家が元の姿に……なんという力だ。これがラスティの力なのか……素晴らしい」


「あとは任せろ」


「ありがとう、ラスティ。そなたの行いは後世に語り継がれる」

「それは嬉しいな。とにかく、家を全部直す」



 俺は走り回って、家を建て直していった。フェルナンデスやニールセンによって破壊された家を全て・・だ。


 おかげで鉄はほとんど消費しちゃったけどな。


 後悔はない。



 全てが元通りになり、港へ向かうと人々が集まっていた。



「ラスティ様、バンザイ!!」「元帝国の第三皇子・ラスティ様が家を直して下さった!」「今は、島国ラルゴの主らしいぞ」「ラルゴだって!? 初めて聞いた島だな」「へえ、いつか行ってみたいな!」「すげぇよ、本当にすげぇよ」「奇跡だ! 我々は奇跡を見た!!」「歴史的瞬間だぞ、これは」「共和国は、ラルゴと同盟を組むべきだ!」「そうだ、今やあの神聖王国が脅威となっている」「ニールセンだっけ? 俺たちの家を破壊した馬鹿は!」「そうだ、ニールセンがゴミなんだ!」「あの男のせいで世界は滅茶苦茶だよ」「家族を殺された者もいる!!」「今こそ立ち上がれ!!」



 凄い人数だ。

 港には千を超える人々が沸き立つ光景があった。いつの間にこんな集まっていたんだ。


 人間、エルフ、ドワーフ、巨人、小人、魚人、天使や悪魔でさえも声を大にしていた。


 これが共和国の“声”なんだ。


 その民たちに向けて、ブレアは剣を掲げた。



「聞け! 我が民たちよ! 今日、神聖王国ガブリエルの親衛隊と支配王ニールセンが直接、このグラズノフ共和国に乗り込んできた。……だが、知っての通り、ラルゴの王であるラスティによって撃退された。しかも、我々の住処まで建て直してくれた。

 彼等は我々の味方であり、親友であり、家族だ。だから、ここに宣言する。島国ラルゴと同盟を組むとな!」



「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!!!」」」」」




「ニールセンをぶっ殺せえええ!!」「なにが神聖王国だ!! ぶっ潰せ!!」「ラスティ様がいれば百人力だァ!!」「俺たちも武器を作るぞ!!」「ああ、総攻撃に備えろ!!」「戦の時だ……」「ブレア様の声に従うんだ!!」「この国をこれ以上、破壊させてなるものか!!」「女と子供を守るんだ!!」「やってやらぁ!!」



「各々の選択は自由だ。闘志ある者は、我が騎士団に入団し、我らと共に戦って欲しい。目指すはドヴォルザーク帝国の国境だ」



 支持する声がいつまでも鳴りやまない。

 凄い、みんな戦う気満々だ。それもそうか、今日まで平和にしていたのに、あの襲撃だ。死んだ者も多くいる。


 だからこそ、立ち上がるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る