ネクロマンサーの男
世界聖書。
本物は、ニールセンが所持していたということなのか。
「ニールセン、お前……」
「驚いたか、ラスティ。フフ、そうさ、これこそ正真正銘の本物の世界聖書。全ての理、予言、過去・現在・未来が記されたアカシックレコード。だが、そのページを開ける者は、世界でただひとり……エルフの聖女だけだ」
……エルフの聖女……だと。
「ま、まさか!」
「その通り。この聖書は普通の人間は読み取れんのだ。真っ白なページが続くだけ……だが、貴様の抱えているエルフ……スコル・ズロニツェこそ、この聖書を読み解くことが許される」
そうか、本物はそういう仕組みらしい。
ならニールセンが悪用できないわけだ。これまでも情報を得ることはできなかったようだな。……となると、真の狙いは……!
「……ラスティさん、わたし……」
「大丈夫だ。スコルのことは絶対に守ってやる」
「はい。信じています」
俺の胸に顔を埋めるスコル。
不安気で今にも泣きだしそうだ。
ニールセンなんかに取られてなるものか。俺は何があろうともスコルを守る。
「ラスティよ、その脆弱なエルフを抱えたまま、この支配王であるニールセンを相手にしようなどと思っていないだろうな」
ヤツは加速してこちらへ向かってくる。
「不可能を可能にするのが俺さ! エドゥ、俺の合図でテレポートを頼む」
「了解です」
エドゥのテレポートで更に上空へ。
黒い渦を巻いてニールセンも追ってくる。
俺は直ぐに『聖槍・グングニル』を生成した。
魔力を最大限に高め、俺は投射。
「くらえええッッ!!」
「ほう、魔力で編んだ聖槍とはな。だが、あまりに弱い力だ……」
ニールセンは、黒い渦を引き延ばして“闇”で俺の槍を絡めとった。分かっていたけど……そう簡単にはいかないか。
「不気味な力を使いやがって。お前は何なんだ」
「不気味とは失礼だな。ラスティ、お前はこれを“闇”と認識しているようだが、それは大きな間違いだ」
「なに……?」
「これは“思念”さ。帝国や共和国が争い、幾たびの戦争で無念に散った者達……その魂の集合体。
改めて我が『ネクロマンサー』の力を示そう」
今度は、ヤツが攻撃を仕掛けてきた。
ネ、ネクロマンサーだって!?
ニールセンは“死霊使い”ってことか。
エドゥにテレポートを繰り返して貰うが、ニールセンもまた瞬間的に俺たちを追尾する。……馬鹿な、ヤツもテレポートを使えるのか。
「ラスティ様。ニールセンの力は、この世のものではないようです」
「そうだろうな、エドゥ。とにかく、テレポートを続けてくれ」
「了解」
街への被害は防ぎたい。
だから空中戦しかない。
空で戦うだなんてな、信じられないけどこれが現実だ。今もテレポートを続けながら高度を保っている。
余計なことは考えないで、ヤツを倒すことだけに集中する。それと、スコルとエドゥを守る。それだけだ。
今度はゲイルチュールを召喚して、俺は構えた。
「ラスティ、お前はそんな武器でこの私を倒そうと言うのか。愚かな」
「これが俺のメインウェポンだからな!」
無人島開発スキルを念じ、俺は『鉄』をアイテムボックスから取り出した。それ瞬間で加工し、いくつもの『槍』に変えた。
宙に浮かぶ無数の槍。
「……製造スキルだと!?」
さすがのニールセンも俺のスキルを目の当たりにして驚愕していた。
普通、戦闘に製造スキルは使わないからな。だが、俺の本質はこれだ。材料を集め、それを生活の基盤とするか、あるいは武器とするか。
だからッ!
「飛べえええええええッッ!!」
「こ、この量の鉄の槍を生み出すとは……! チッ、魔法攻撃ならば防げるが、
高度を下げていくニールセン。
野郎逃げる気か!
「この卑怯者!! 正々堂々と戦え!!」
「これは逃げではない……転進だ。いいか、ラスティ……これは“戦争”だ。貴様と戦うだけが全てではないのだよ。手土産にこの共和国に災厄をプレゼントしよう」
ヤツは、指を鳴らす。
すると何もないところから『ブラッディローズ』という血に塗れた死神が召喚された。な、なんて数だ。
大きな鎌を持ち、不気味というか
しかも、一体、二体というレベルではない。
三十はいた。
「ニールセン、お前!!」
「ドヴォルザーク帝国に使うはずだったが、まあいい。魔界からわざわざ取り寄せた……極上の死霊たちだ! とくと味わうがいい!」
ヤツは撤退していく。
くそっ、なんてものを残していきやがる!
死神たちが降下して街へ向かっていく。なんとかしないと!
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