ドヴォルザーク帝国侵攻
建物を増築するという目標は達成した。
再びラマ・パコスに乗って拠点を目指す。城に着くころには日が沈み、夜になった。
「……ふぅ、なんとか到着。野宿にならなくて良かった」
スコルを降ろし、立たせた。
「ありがとうございます。ラスティさん」
「いや、こっちこそ付き合ってくれてありがとう」
自然とお互い見つめ合う。
また求め合おうとするけれど、ハヴァマールがやって来た。
「兄上、戻っていたのか!」
「あ、ああ……ただいま、ハヴァマール」
「スコルも一緒だったのだな」
「はい、ハヴァマールさん。わたしもご一緒していました」
納得するハヴァマールは改めて俺の方へ向き直った。この顔は、なにか報告でもありそうだな。
「なにか変わったことがあったのか」
「うむ……兄上、大変なのだ」
「た、大変って……なにが?」
「とにかく大広間へ来るのだ」
手を引っ張られ、俺は連行されていく。
なんなんだか……?
* * *
大広間へ到着すると、中で待っていたルドミラやエドゥが立ち上がった。俺をずっと待っていたのか。
「どうしたんだ、ルドミラ」
「ラスティくん……ドヴォルザーク帝国が……」
「ま、まさか……! ニールセンの……神聖王国ガブリエルの侵攻があったのか!?」
「その通りです。数時間前、南西より大軍が国境を突破した模様です。帝国と神聖王国ガブリエルは陸続きですからね」
ニールセンのヤツ、ついに動き出したか。
ドヴォルザーク帝国を守ろうという前に手を打ってきたってことか。行動が早いな。
「状況は?」
「今のところはルーシャス・スナイダー団長率いるレオポルド騎士団が迎えていますが……果たしてどこまで持つか」
「ルーシャス……」
「はい。現在のレオポルド騎士団の兵力は申し分ないのですが……やはり皇帝陛下なき現状では士気はかなり低いのです。逃げ出した者も多く……数的には帝国が十万。ニールセン側が二十五万といったところです。このままでは……」
悔しさを
そこまで減っていたのか。
いや、分散している兵力もあるせいだろうけど……それでも少なすぎる。
俺が思っている以上にドヴォルザーク帝国は弱体化していたらしい。そこまでとはな……このままでは支配され、
どうするべきか悩んでいると、扉が開いた。
「誰だ……!」
ルドミラが剣を抜き警戒する。
だが、その顔に見覚えがあった。
「トレニアさん。久しぶり!」
「お久しぶりです、ラスティ様」
トレニア。
以前、ドヴォルザーク帝国で“移民募集”した時にお世話になったギルドの受付嬢だ。当時は『世界ギルド』のギルドマスターでもあった。今は我が島の住人となっていたのだが……。
「今は大事な会議中で……」
「ご無礼をお許しください、ラスティ様。それより噂は聞いております。ドヴォルザーク帝国がピンチなのですよね」
「あ、ああ……」
「では、世界ギルドをご利用ください。私は辞めてしまった身ではありますが、呼びかけることは可能です」
「世界ギルドを?」
「はい。ラスティ様の声でしたら、きっとグラズノフ共和国、エルフの国ボロディンにも情報が届くはずですから」
「……その手があったか。世界が危機なのは一緒だ。帝国が落とされれば、次は共和国、その次はボロディンと波及していく。あのニールセンならやるだろうな」
結局俺は、ドヴォルザーク帝国を守らなきゃいけないんだな。自国で手一杯だというのに……他人の国を救おうとしている。……いや、皇帝は不在だけど。
何の為に……。
世界の為か。
そうなるんだろうな。
これが世界聖書の運命なのか?
「いかがなさいますか、ラスティ様」
「確かに、帝国は滅亡の危機に瀕している。このままだと焼野原になるだろうし……何の罪のない人々が殺されるだろう。海外の……蚊帳の外の話ではあるけど、放ってはおけない。どのみち、ラルゴにも攻めてくる。なら、今こちらから攻める方が得策と言える」
「では……通達を」
「よろしく頼む」
「了解しました」
トレニアは、丁寧に頭を下げて去っていく。
見送るとルドミラが軽い溜息を吐いた。
「よろしかったのですね、ラスティくん」
「ああ、帝国は腐っても故郷だ。今回は特別に貴族も含めて助けてやる」
「……素晴らしい志です。我が主」
これで決まりだ。
こちらから出るのは各国の反応次第だ。
援軍があれば助かるのだが――。
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