暴れ出す者たち
ワーグナーは、ブラームスと同じ小屋へ入って貰った。
二人は久しぶりに再開を果たしたようで涙ながらに抱き合っていた。……何か企んでなければいいのだが。
「兄貴たちは、ラルゴの……俺のルールに従ってもらう。いいな」
二人とも素直に頷いた。
素直すぎる気がする。
まあいい……何かあったら、この俺が直々に対処する。
俺は移住者の方が気になって背を向ける。だが、ブラームスが呼び止めてきた。
「ま、まってくれ、ラスティ」
「なんだ、ブラームス」
「……ドヴォルザーク帝国の皇帝になるのか?」
「ならない。俺はこの“ラルゴ”の主だからな」
そうして俺は小屋を去った。
面接会場となっている屋敷へ向かい、改めて人の多さに驚く。
ざっと四、五十人はいるな。
ストレルカの船の中にも何十人と待機しているようだ。
今日だけで百人ってところかな。
屋敷内へ入っていくと、早々に事件は起きた。
「ふざけんじゃねえ!!」
大男が暴れていた。
な、なんだ……?
「グスタフさん、貴方には犯罪歴があるので移住を許可できません」
「犯罪者だからって差別するのか!」
「差別ではありません。そういう法律ですから」
と、ルドミラは丁寧に説明した。
冷静な対応だな。
だが、大男はそれでも暴れた。
「なにが法律だ。まだ出来立てホヤホヤの弱小国が! こんな、しょっぺえ国はこの俺様が潰してやる!」
男は、斧を取り出し振り回した。
なんてヤツだ!!
周囲の人に危険が及んでいる。
「やめろ!!」
「なんだ小僧! お前ごときが俺様に指図するな!!」
「俺はこの国の主、ラスティだ。悪いが、あんたには出て行ってもらう」
「ほう!? この国の主が現れたか……丁度良い。お前の首をニールセン様に差し出してやるッ!!」
こ、こいつ……神聖王国の!!
驚いている間にも斧が向かってきた。俺はゲイルチュールで対応し、防御した。
ガンッと激しく衝突し、俺は手が痺れた。……こ、こいつなんて馬鹿力だ。
「ラスティくん!!」
「ルドミラは移住者を守れ!! ここは俺が何とかする。テオドールも人々を守れ!」」
「りょ、了解しました」
「わ、分かった」
屋敷を飛び出すと、グスタフも俺についてきた。
野郎、最初からそのつもりだったのか。
「鬼ごっこはそこまでにしておけ、ラスティ。こいつを見ろ」
「……ん? あ! お前、その小さな女の子……」
「そうだ、さきほどの屋敷から人質として
更に後方から、女の子の家族らしき人たちが「助けて」と叫んで駆け寄ってきた。
「お前……無関係の人を巻き込むな」
「フハハハ! お前の首を取るためだ、どんな手段も使う」
この野郎……絶対に許さん。
女の子は恐怖で怯えていた。
新しい生活が待っていたはずなのに、こんな怖い思いを……ニールセンも、その仲間も外道だ!!
コイツ等は自分さえよければそれでいいのか!!
「女の子を解放しろ」
「土下座して無抵抗で首を差し出せば放してやらんこともない」
「……そうか」
俺はグスタフに接近する。
「ほう? 諦めるとはたいしたことがなかったな」
「……諦めないさ」
「は?」
「俺は諦めない。この国をよりよいものにする為に、希望を追ってきた人々の為に……絶対に諦めない」
ハヴァマールの力を借りる。
俺は全力で魔力を絞り出し、聖槍を生成した。
バチバチと放電を繰り返す、雷神の槍。
「……き、貴様。そんなものを投げて、この人質も巻き込む気か!!」
「俺の槍は悪人にしか命中しない」
「そ、そんなわけがあるか!!」
「なら試してみるか」
「……」
グスタフは固まり、けれどニヤリと笑った。
「な、何をする気だ」
「ならこの少女は人質として不要だ。……殺す!!」
斧を振り上げるグスタフは、女の子を惨殺しようとする。……そうか、それがコイツの答えか。なら俺は!!
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