神々の黄昏編(最終章)
増え続ける移住者
国として機能しはじめると、移住者が次々とやってきた。
もちろん全員を受け入れるわけではない。
ひとりひとり面接をして、過去に問題がないかとか経歴なども判断する。
なるべく治安を良くしたいし、犯罪も減らしたい。
特にスパイには注意したい。
今は情勢的に『神聖王国ガブリエル』が信用ならない。どちらかといえば、ドヴォルザーク帝国もだが……。
だが、人を増やす為だ。
その為の厳選でもある。
その仕事はルドミラとテオドールに任せた。二人なら人を見る目はあるはずだから。
「ストレルカ、船はどうだい?」
「はい、今はオケアノスを使いテテュス号を自動操縦で動かしています」
「素晴らしい。君の活躍によって国は豊になる。ありがとう」
「い、いえ……その、ラスティ様の為ですから!」
顔を真っ赤にするストレルカは、可憐で可愛かった。そんな風に照られると、こっちも照れるな。
スコルとハヴァマールは、海外からやってきた移住者を特別開放した屋敷に案内。説明を任せた。
エドゥは、島の治安を守ってもらう為に監視をしてもらっている。万が一があるかもしれないから、監視の目は多い方がいい。
俺も問題があればすっ飛んでいく予定だ。
「ストレルカ、船の方は頼む」
「お任せくださいませ」
「じゃあ、俺は屋敷の方を見てくるから」
「お気をつけて」
大広間を後にし、城を出ていく。
ここから少し離れた場所に屋敷はある。その近くに港もあるので、そこから人々がやって来る。
歩いて向かうと、すでに多くの移住者が手続きをしていた。
ルドミラとテオドールが忙しそうに面接を行っている。スコルとハヴァマールも誘導したり、案内をしている。
こんな光景がやってくるとはな。
そんな中、怪しい人物が視界に入った。
……なんだ、あのローブの人。
さすがに顔出ししないのは怪しすぎる。
俺はそのローブの人物の肩を叩く。
「すみません。ちょっと、こちらへ宜しいですか」
「え……その、えっと、はい」
ローブの人物は少し震えながらも素直に応じた。
人気のない別の場所へ移動し、俺はそのローブの人物に問うた。
「そのローブを取って貰っても良いですか? この島に住む以上、顔出ししてもらわないと」
「……っ!」
そう説明すると、ローブの人は焦っていた。怪しいな。
「顔を見せられないと?」
「……!!」
こうなったら無理矢理でもローブを剥ぐしかない。
俺は謎の人物のローブに手を伸ばす。
だが、風のように避けられ――俺はビックリした。なんだ、この身のこなし……只者じゃないぞ。
「お前……何者だ」
「……ラスティ、このままでは帝国は終わりだぞ」
「!? ……そ、その声はまさか」
ローブを脱ぐソイツは、顔を露わにした。……まさかこいつがこの島に来るとはな。
「そうさ、俺さ」
「第一皇子・ワーグナー!! 今更何をしに来た。また痛い目を見たいのか!」
「違う。このままでは帝国が滅ぶ。だから……」
ワーグナーは諦めたかのように膝をつき、項垂れた。嘘だろ……プライドだけは無駄に高いクソ兄貴が……俺に頭を下げるとは。
「なんのつもりだ」
「ニールセンは本気だ。一週間以内にドヴォルザーク帝国に攻めてくるつもりだ……。皇帝不在の帝国に」
「俺にどうしろっていうんだ。言っておくが、今この“ラルゴ”で手一杯なんだぞ」
「俺もブラームスも王位継承権は放棄した。そして……お前もだ。これでは帝国はおしまいだ……」
「まさか俺に皇帝をやれって言うんじゃないだろうな」
「お前が無理なら、あのニールセンが皇帝になるだけだ。ヤツは、本物の第三皇子。……問題はないわけだ。だが、その時は神聖王国の時代がはじまってしまう」
……確かに、それはよくない。
つまり全世界が敵になる可能性さえあるということだ。
帝国をニールセンのものにすれば……この国も危うい。
だけど……。
「やっぱり無理だ。兄貴、お前がやればいいじゃないか」
「お、俺には無理だ……皇帝なんて責任が重すぎる!!」
「皇帝ってモンは、そういうものだろ。てか、兄貴はなりたいんじゃなかったのか」
「昔はそう思っていた。でも、親父が死んでから……全ては変わった。ヤツは魔王で……今度は本物の第三皇子が世界で暴れ回っているとかさ……。こんなの狂ってるよ」
「おいおい、兄貴。もっと自信を持てよ。昔はそんなんじゃなかったろ?」
「……ラスティ、お前には敵わなかった。昔も今も……。だから」
俺は兄貴の頬を叩く。
「元気だせ、兄貴。てか、ブラームスもこの国にいるんだよ。連れていってくれ」
「だ、だろうな……ブラームスは俺に出ていくと言い残して去っていったからな。俺も似たような理由さ。もう俺とブラームスに居場所なんてないんだ」
「忘れてた。そや、ワーグナーの兄貴も幽閉されていたんだった。……仕方ない、皇帝にはならないけど帝国は救ってやる」
「ラスティ!! 本当か!!」
「民に罪はない。けど、ワーグナー、ブラームス……二人には責任を取ってもらうからな」
「ああ……それでいい」
ワーグナーは素直に納得した。
……ふむ。
この兄貴がこんな風に応じるとは――。
……これは
そう、俺はこれっぽちも兄貴達を信じちゃいなかった。企んでいるニオイがした。それがなんであれ、俺は必ずラルゴを守る。
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