特殊状態異常を解除せよ!!

 まだ完全に信用したわけではないが、マットを歓迎した。

 茶くらいは出してやらないとな。


「スコル、悪いけど」

「はい、お任せください~」


 空気を読んだスコルは、お茶を淹れに行った。

 俺はその間に更なる事情を聞いた。


「で、マット。ニールセンの動きは?」

「……そうだな、兵の会話を聞いたけどラミエルを落とした後は『ドヴォルザーク帝国』へ進軍すると言っていた」


「やっぱりそうなのか……!」

「やっぱり? 君も何か知っているのかい」


「ああ、そうだった。俺はラスティ。実は、ドヴォルザーク帝国の元第三皇子だったんだ」


「マジかよ!!」



 驚いてマットはひっくり返りそうになっていた。そんな驚くとは。

 まあ、話して良い情報だけ教えておくか。



 俺は元第三皇子であること、追放されてこの島に国を構えようとしていること、ニールセンの刺客たちが攻めてきていることを話した。



「――というわけなんだ」

「そんなことが……」

「だから、この島も安全とは言えない」


「そうだったのか。でも、助けられた礼がある。この僕も何か手伝わせてくれないか」


「いや、今はいい。家はいくらでも空いている。好きに使ってくれ」

「それはありがたい。でも、君の力になりたいんだ」


 マットは頭を何度も下げる。

 そうお願いされては断れないな。


「そうか。確か、マットは“教授”なんだっけ」

「そうだ。以前は三十人ほどの生徒を相手に魔法スキルを教えていた」

「へえ、魔法専門?」

「そうだよ。スライムを倒す為の初心者魔法から、ドラゴンを倒せる大魔法まで熟知している。あと、状態異常も専門でね。付与したり、解除したり」


 へえ、さすが教授か。

 状態異常の専門とはな。


 ん……まてよ。


「マット、もしかして特殊な状態異常も解除とかできる?」

「たいていは可能だよ。付与できる魔法はね、解除も絶対に可能なんだよ。そういう理さ」


「マジか! なあ、マット。例えばなんだが、特殊な乗っ取りスキルを解除できたりないかな?」


「乗っ取り? って、誰か体を乗っ取られたとか?」

「そうなんだよ。この城の地下にテオドールという男がいる。俺の仲間なんだが、神聖王国の刺客に体を乗っ取られてしまってな。特殊なスキルらしくて、大賢者でも解除できないんだ」


「それは大変だ。この僕が見てあげようか」

「いいのか」


「ああ、力になりたい」

「分かった」



 スコルの茶を飲み干したのち、俺とマットは地下牢へ向かった。



 * * *



 地下牢へ向かうと、テオドールがいた。

 もちろん中身はヤスツナだ。


「起きているんだろう、ヤスツナ」

「……なにしにきた。無駄だと言っただろ!!」


「それはどうかな。こいつを紹介する」


「あぁん!? なんだそのもやし・・・みたいな男。そんな男に何ができる」



 と、ヤスツナは散々貶す。

 けど、マットはいたって冷静。ヤスツナを無感情のまま見下していた。なんか迫力あるな。



「乗っ取りか。珍しいスキルではあるが、特殊状態異常のひとつではないか」

「マット、なんとかなりそうか」

「うん、これは聖獣神スレイプニールが編み出したという秘術のひとつだな」


「な、なんだそのスレイプなんとかって」


「おいおい、ラスティくん。勉強不足だね、世界の始まりだよ? いいかね、この世界お作りなられたオーディン。世界の理を完成させたスレイプニール。あらゆる魔法アイテムや武具を作ったグングニル。

 中でも聖獣神スレイプニールは、魔法などスキルを作ったとされている。我々が使えるスキルは聖獣神のおかげさ。で、いろいろなスキル系統の中に『特殊状態異常』なんてものがあってね。強力な状態異常を与えることができるけど、解除も可能だ」


「そりゃ凄いな。マットなら解除できるのか?」

「余裕さ。僕はずっと研究してきた」


「頼む、マット。報酬はこの国の永住権だ」

「そりゃ魅力的だ。いいだろう、あの男性から“乗っ取り”を解除すればいいんだね」

「ああ」


 うなずくマットは、手をかざす。

 ヤスツナはそれでも余裕顔だった。



「無理無理。この状態異常を解除なんて出来るわけ――うああああああああああああああああああああ!!!」



 いきなり叫び出すヤスツナ。

 ヤツの全身が真っ赤に染まっていく。

 こ、この魔力……波のような膨大な魔力だぞ。


 やがてヤスツナは――いや、テオドールは倒れた。



「…………」



 ヤスツナの体は別の牢に横たわっている。そちらに注目するとムクッと起き上がった。



「うそだ、うそだ、うそだああああああああ!!」



 発狂するヤスツナ。

 アホだコイツ。



「おぉ、大成功じゃん! マット、ありがとう。恩に着る」

「いやいいさ。君の友人を守れて良かった。それじゃ、僕は好きにさせてもらうよ」

「ああ、今日は城に泊まってくれていい。明日、家をプレゼントするよ」


「そりゃ嬉しいな。じゃ!」



 マットは去っていく。

 俺はテオドールの牢を開け、容体を確認。



「おい、テオドール」

「……っ。ここは……どこだ。私はなんでこんな場所に」


「お前、体を乗っ取られていたんだよ。三日くらい」

「……へ? 体を? そういえば、知らんヤツに精神介入されていたような……うぅ、気色が悪い」



 顔面を開くしてぶるぶる震えるテオドール。



「もう安心しろ。テオドール、君はしらばく休め」

「そうさせてもらう。ところでルドミラとエドゥたちは?」


「二人なら心配するな。みんな元気さ」


「良かった。ラスティがいれば……って、ラスティ!!」



 今更驚いて歓迎してくれるテオドールは、暑苦しく抱きついてきた。そういえば、なにげに久しぶりの再会。

 俺もやっとテオドールに会えて嬉しかった。


 彼がいないと島の開発も進まないし、錬金術師、鍛冶屋、テイマーとしての能力は一級品。なかなかいない逸材なのだ。



「テオドール、よくぞ島を守ってくれた」

「それはこっちのセリフだ。よく戻って来てくれた! 心配したぞ」



 がっちり握手を交わし、俺はテオドールを牢から出した。ようやく、元通りか。

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