無人島Lv.950

 今夜はもう寝ることにした。

 明日はダンジョンを作らないと……。


 自室へ戻り、俺はふかふかのベッドの中へ。


 ふぅ~、良い寝心地だ。

 久しぶりに自分の部屋で寝るなぁ。


 寝返りと打つと“むにゅっ”と柔らかいものを掴んだ気がした。


 ん?


 なんだこれ。

 掴んでみると、やたら柔らかいものだった。



「……ラ、ラスティさんのえっち!!」

「え!? って、スコル!!」


 いつの間にか俺のベッドの中に寝間着姿のスコルがいた。隠れていたのかっ。


「ラスティさん、どこ触っているんですか」

「ど、どこって……暗くて見えなかったけど……」

「うぅ、もっと触ってくれないと許しません」


「え! そうなの。どこを触れば許してくれるんだい?」


「全部です」

「へ」


「体から髪の毛の一本一本まで余すことなく全部です」


 マジかよ。

 とんでもない要求に俺は頭が真っ白になりかけた。

 全部って……!


「仕方ないなぁ」


 俺はスコルを抱き寄せて――抱き枕にした。

 なんて体の柔らかさ。

 花のような上品な匂いも良い。


「ラスティさん、顔が近いです……」

「そりゃそうだ。ん~、スコルはなんでこんな柔らかいんだ」

「わ、分かりませんよぅ」


 顔を真っ赤にして俺の胸に頭を埋めるスコル。小さくて本当に可愛い。


「なあ、スコル」

「はい、なんでしょう」

「守護聖人の“ラザロ”って名前に聞き覚えはあるかい」


「え、どうしてその名を」


「うん、実はさっき助けた人がいたろ。あの人が知っていたんだ」

「ああ、さっきのマットって人ですよね」

「マットは魔法学院の教授らしい。で、乗っ取られていたテオドールの特殊状態異常を解除してくれたんだ。その時、彼が言っていたんだ」


「そうだったのですね。ラザロは確かに我が父の名。ですが、わたしは会ったことがなくて……」


 どうやら、スコルの記憶にはないらしい。

 赤ん坊のころだったようで――そりゃ、覚えてないよな。


「そうか。悪い、変なこと聞いて」

「いえ、いいんです。ラスティさんには、わたしのことをもっと知って欲しいです」

「良かった、怒ってないんだな」

「怒りません。その代わり、今夜はこのまま……」


「分かった」



 俺はスコルを抱いたまま寝た。



 * * *



 ――翌朝。


 目覚めると、俺の直ぐ傍でスコルは寝ていた。そうだった、昨晩はスコルと一緒に寝たんだった。


 こんな可愛い寝顔を晒してくれて、俺は嬉しかった。


 う~ん、これは小動物的なあざとさがあるな。


 いたずら心で俺はスコルの頬を指で優しく突く。


 頬がふにふにで驚く。

 へぇ、これがエルフの肌か……まるで赤ん坊のようじゃないか。それとも、スコルが特別なのか。



「……ん~」



 おっと、起こしてしまうな。

 起きるまでは抱き続けていよう。



 ・

 ・

 ・



 あれから少し経ち、スコルが目覚めた。



「おはよう、スコル」

「おはようございます、ラスティさん」



 にぱーと破顔するスコルだが、寝間着の胸元が崩れている。谷間が凄い露出しているのだが、気づいていない様子。……正直、目の保養には最高だ。このまま黙っておくべきか。だが、可哀想でもあるかなぁ。


「スコル、怒らないで欲しいんだけどさ」

「はい?」

「胸元がはだけているよ」


「……え、ええっ!! み、見ないでください……」



 スコルは恥ずかしそうに両手で隠すけど、もう遅かった。



「大丈夫だよ。そこまでまじまじと見てないから」

「見てたんですね……うぅ。ラスティさんにならいいですけどね」



 やや涙目のスコルだが、そう言ってくれるのは嬉しいな。


 それから着替えて部屋を後にした。

 俺は朝食の前に朝の散歩へ。


 と言っても、ただの散歩ではない。

 島の状況を確認するための時間だ。防衛設備の不備がないか確認したり、不法侵入者がいないかとかモンスターが暴れていないかを実際に歩いて回る。


 現在『無人島Lv.950』だが、まだまだ対処しきれない部分も多い。少しでも問題を排除すべく、俺は自ら動くのだ。


 今日は誰と出掛けようかな。

 そう、この早朝の散歩は毎朝のルーチンとなっていた。


 ただ誘う相手は俺が選択していた。


 ……誰にしようかな。


 考えていると、テオドールが名乗りでた。



「おはよう、ラスティ。私と散歩してくれないか」

「そうするか。しばらく話してなかったし、いろいろ情報を交換しよう」

「ああ、たまには男同士っていうのも悪くないだろ?」


「いや、俺は女の子の方がいい」


「ひでえや。じゃあ、女装でもするかね」

「勘弁してくれ。テオドールの女装とか――いや、でも似合いそう」



 テオドールは細身高身長だし、容姿も整っているイケメンの部類。けど、不思議とスコルやルドミラたちは興味を示さない。なんだろうね。



「まあ……商売上、女装もするんだがな」

「マジで?」

「うん。私はトリプルジョブという特殊な職業を負っているからな。取引相手クライアントも多くてさ。その中でも女の子しか相手してくれない貴族ともいるわけさ」


「なるほどなぁ、そういう相手の為に女装する場合もあるんだな」


「そうとも。莫大な利益を得る為には手段を選んでいられないんだよ。プライド? そんなものはビジネスにおいて邪魔になるだけだ。犬にでも食わせておけ」


「へぇ、為になるなあ。よし、テオドール、一緒にきてくれ」

「もちろんだ。モンスターを狩りながら行こうぜぇ」



 だが、背後の女性陣がテオドールを睨みつけていた。……うわ、凄い怨念を感じるぞ。けど、テオドールはまったく気づいていない。


 ルドミラなんか、今にも剣を抜くような殺気を漂わせていた。


 あー…。

 テオドールは災難ばかりだな。



 なんとかしてやりたいけど、これはばかりは……今はとにかく、散歩へ行こう。

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