魔法学院の教授

 俺は先に風呂から出た。

 服に着替え、夜風に当たりに庭に出た。


 ダンジョン作成は、明日にするとして――明後日までには『開国』しないとな。



 開国するにはレベルが不足している。

 だからこそのダンジョンだ。


 材料の石と土は十分。

 あとは木材をもっと収集して、いよいよダンジョンを作る。


 この島限定の“快適なダンジョン”をな。



 そんなことを考えながら星空を見上げていると、いつものシスター服姿のスコルがやって来た。



「ラスティさん、ここにいらしたのですね」

「スコル、今日も支えてくれてありがとう」

「いえ、当然のことですから。わたし、ラスティさんのお役に立てていますよね?」


「もちろんだよ。スコルがいなかったら俺は何も出来ない」

「それは言い過ぎです。わたし、そんな器用じゃありませんから」

「いやいや、それは謙遜けんそんしすぎだ。スコルの料理スキルとか家事スキルは、すでにアルフレッドを凌いでいる。きっと彼もそう言っただろうな」


「そ、そんな褒められると照れちゃいます……」



 頬を真っ赤にして俯くスコル。

 乙女すぎる仕草に俺は胸がドキドキした。

 なんて可愛いんだ。


「そ、その……なんだ。一緒に国をよくしていこうな」

「はい。神聖王国とか動きが不穏ですけれど、きっとラスティさんなら乗り越えられると信じています」


 両手を握ってくれるスコルは、俺の真っ直ぐ見据えた。

 そんなエメラルドグリーンの瞳で見つめられると、俺の姿が映るような――いや、その瞳には確実に俺の存在だけがあった。



 雰囲気に流され、俺はこのままキスとか……。

 いやいや、ダメだ。


 けど、ちょっとくらいなら――と、俺は決心を固めた。


 スコルを抱き寄せた。

 勢いで“ぎゅぅっ”と抱いて日頃の感謝の気持ちを表した。



「……急ですまん」

「謝らないでください。わたし、すっごく嬉しいです。だって、ラスティさんのことが好きだから」


「うん、俺もだ。俺もスコルが好きだよ」

「えへへ、嬉しいです。ラスティさん、このまま二人きりでお散歩しませんか」

「そうだな、ゆっくり島を回るのもいいだろう」



 たまには夜の島を散策するのもいいかもしれない。新しい発見とかあるかも。



 * * *



 海へ向かうと、大きな満月が海を照らしていた。なんて明るいんだ。



「おぉ、今日は綺麗だな」

「はい、お月様があんなに丸いです」


 少し前に砂浜に作ったベンチに腰掛けた。スコルの方から頭とか体を密着させてくる。


 俺はちょっとビックリして緊張が高まった。うわぁ、スコルの良い匂いとか体の感触が……。


「海は穏やかで波の音が心地よいな」

「子守歌になって癒されます。眠ってしまいそう」


 まぶたの重そうなスコルは、こくこくと転寝をしていた。まるで猫のようで可愛いな。


 そんなまったりの中、俺はふと気づいた。



「なんか倒れてないか?」

「え? どこにです?」



 浜辺の波打つ境界線あたりに人が倒れているように見えた。まさかな……?


 なんとなく近寄ってみると、それは間違いなく『人間』だった。


 嘘だろ。

 まさか漂流者?


「おい、あんた。大丈夫か」

「…………」


 反応はない。

 もう死んでいる、とか。


 男らしき人物の腕を取り、脈をはかる。


 ……うん、死んではいない。

 けど、だいぶ衰弱しているようだな。



「スコル、ヒールを治療を」

「分かりました。――ヒール!」



 ぽわっと青白い光が漂流者を包む。

 すると、回復したらしく意識を取り戻していた。



「こ、ここは……僕は、なんで……? あぁ、そうだ。僕は何もかもを失って……あぁぁぁ……!!」


「ど、どうした、君」


「ニールセンだ……」

「え?」


「ニールセンの率いる神聖騎士団が攻めて来たんだ!! それで……街が滅ぼされてしまった。僕は海に飛び込んで生き残ったんだけど……クソぉ、なんであんなことに」


「神聖騎士団だと?」


「僕の住んでいた町は、かつて連合国の一部だったんだ。でも、魔王の件があって生き残って……独立したんだ。

 けど、今度は強大な力を持つ神聖王国ガブリエルが奇襲を仕掛けてきて……住人を皆殺しにして……酷過ぎる」


 この青年は生き残りってことか。

 そうか、ニールセンはすでに支配に動き出しているんだ。この人は奇跡的に助かって、この島に流れ着いたと。


「もっと詳しく聞かせてくれないか。今はその神聖王国の情報が少しでも欲しいんだ」

「分かった。協力する……どうせ、他にいくあてもないし」


「ああ、ところで君の名前は?」

「僕はマット。滅んだけど『ラミエル』という街の出身で、魔法学院の教授をやっていた」


 ラミエル、聞いた事はないが――職業は教授、つまり魔法の先生か。へぇ、いろいろ知識を持っていそうだな。


 ともかく、このマットを保護しよう。



「俺の城へ招待しよう」

「し、城!?」



 城へ案内すると、マットは驚いていた。



「ここが俺の城」

「え、こんな無人島にお城? なんで!?」


「ここはもう無人島ではないよ。俺の島というか国だ」

「そ、そうだったんだ。なんか凄いな」

「詳しくは城で聞くよ。さあ、行こう」



 マットを連れ、俺は大広間を目指した。

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