ギルドの受付嬢

 移民募集者を募って一日。

 日が沈もうとしていた。



【島国ラルゴ:移民募集中!(27166/30000)】



 希望者は、既に三万近い。

 上限に到達しそうだな。



 明日にでも限界値に達するだろう。



「聞いて下さい、ラスティ様。オケアノスが気を利かせて下さいまして、船を高速で向かわせてくれたようです。明日には到着するそうなのです!」



 丁度、ストレルカの報告を受けた。そうか、船が着くのか。ということは明日には我が島へ帰れるな。


 移民募集も終わるだろうし、これで募集は無事に完了かな。



 その日は、またホテルで一泊。

 前日と同じような優雅な生活を送り――翌朝。



「……ふぅ、今日でもう島に帰れるのか」



 ベッドから起き上がると、スコルも眠たそうに目を擦って立ち上がった。ホテル貸し出しのシャツ一枚であまりに薄着。



「おはようございます、ラスティさん」

「あ、ああ……スコル。ちょっと、フトモモとかまぶしい」


「えへ~。そんな見ないで下さいよぉ」



 寝惚けているのか、スコルは抱きついてくる。やれやれ、朝に弱いな。



「み、見てないよ。さあ、着替えて」

「着替えさせてください」

「――へ?」


「だ・か・ら、着替えさせてください」



 なんかトンデモナイ要求をされている。俺がスコルを着替えさせる!? 無理無理。恥ずかしくて死んじゃう。



「いやぁ、それはさすがに……そうだ。ストレルカに頼め」

「ストレルカさんは、まだ寝ていますからダメです」



 ほらと、シスター服と下着を手渡される。――って、まて。下着つけてないの!!



「ちょ、ちょ、ソレはやばいって! ていうかスコル、シャツの下はどうなってる!」

「え……なにもない・・・・・ですけど」



 その瞬間、俺は頭が爆発しそうになった。やっぱり、無理だ!!


 騒いでいるとストレルカが目を覚ます。



「朝から騒がしいですね。って、ラスティ様とスコルさん、何をしているんですか」

「あぁ、助かったよ、ストレルカ! 寝惚けたスコルを着替えさせてやってくれ」

「ええ? わ、分かりましたが……どういうことです?」

「いいから頼んだよ!」



 俺は、部屋から出ていく。



 廊下に出ると、ポケットが騒がしかった。



『うぉい! いい加減に元に戻せ!!』



 そうだ、獣人ドムをすっかり忘れていた。そういえば、ずっと俺のポケットの中にいたのか。やっべ、バッチイなあ。


 取り出し、てのひらへ取り出す。



「よう、ドム」

「よう、じゃねぇよ! 俺様こんなミニマムサイズにしやがって!! おかげでお前のポケットの中で生活していたわ!」


らしてねぇだろうな」

「バカモノ。獣人と人間では体の造りが違うんだよ。とはいえ、そろそろ腹が限界だがな」


「って、おいおい。トイレなら他所よそでしてくれ」

「ちゃうわい! 腹が減ったんだ。なにか食わしてくれ」

「そっちかよ。まあ、それくらいならいいか」



 俺は、最上階へ向かいバイキングから食べ物を戴いた。俺やスコル、ストレルカの朝食もついでに。



 * * *



 ドヴォルザーク帝国を出発する。

 どうやら、船はもう港にいるようだ。


 あとは移民の方だけど――



【島国ラルゴ:移民募集中!(30000/30000)】



 ついに“三万人”に到達。

 もうこれ以上は募集は出来ないので、自動的に終了となった。



「よしッ! これで島に人が増えるな」


「お疲れ様です、ラスティさん」

「これからは島が賑やかになり、より発展もしますね。がんばりましょう、ラスティ様」



 スコル、ストレルカから労いの言葉をいただき、俺はやる気がアップ。無人島――いや、国へ着いたら、もっと開発を進めないとな。


 そう、それこそ『開国』を目指して。


 もうドヴォルザーク帝国でやる事はない。あとは移民を待つだけ。どうやら、移民は『世界ギルド』を通してストレルカの船を利用して来るようだ。そんな運びとなった。



「ラスティ様、船へ参られますか?」

「そうだな、ストレルカ。俺たちは一足先に島へ帰ろう」

「分かりました。では、向かいましょう」



 スコルとストレルカに挟まれ、港を目指す。やがて大きな船が見え――乗船。デッキの上でドヴォルザーク帝国の街並みを見渡す。


 これで見納めになるかもな。


 少なくとも、しばらくは来れないだろうな。


 いよいよ出航となった――その時。



「ラスティ様~!!」



 街の方から俺を呼ぶ声。

 手を振り、こちらへ全力で走ってくる。

 けれど、船は少しずつ帝国を離れていた。



「あっ、ギルドの受付嬢のトレニアさんだ!」

「えっ、本当ですかラスティさん」


「ほら、あそこ!」



 スコルもトレニアさんの姿に気づく。



「本当です! トレニアさんですね。でも、手に荷物を持っていますね」



 まさか、俺たちに着いてくるつもりか!?



「ストレルカ、帝国へ戻れないか?」

「船をこちらへ来させるのに、かなり大量の魔力を消費しましたから……引き返すのはちょっと厳しいですね」


「マジか! どうする!」



 トレニアさんを置いていくか。それとも俺が船から飛び降りて……ん? まてまて、トレニアさん、なんか物凄いスピードで走って来てる。


 海との境ギリギリで跳躍ジャンプ



「えええええ~~!!」



 飛び跳ねるトレニアさんにスコルが驚く。という俺もビックリした。嘘でしょ。もう結構距離があるのに――!



「まだ乗船には間に合いますよね!!」



 ぴょ~~~~~~んと、華麗に弧を描くトレニアさんは、この船へ見事に飛び移った。


 嘘でしょ……もうかなり距離があったのに、とんでもないジャンプ力だ。この人、ただのギルドの受付嬢じゃないぞ。



「えっと、トレニアさん?」

「あら、ラスティ様。ごきげんよう」


「普通に挨拶してるし。いいの? 受付の仕事。ギルドマスターでもあるんでしょ?」


「大丈夫です。今朝、ギルドマスターも受付嬢も辞職してきました」



 それを聞いて、俺もスコルもストレルカでさえも驚いた。



「「「な、なんだって!!!」」」



 な、なんて人だ。

 わざわざ安定した職を捨て、俺たちについてくるとか。でも、その心意気と覚悟、気に入った。俺はもともとトレニアさんを迎えようと考えていたし――よし、島へ連れていくか!



 船はいよいよ島へ向けて出航した。

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