世界から集まる移住希望者

 回復魔法『キュア』のおかげで、スコルの傷は癒えた。良かった、一生の傷になったらどうしようかと思った。


「もう痛くないか、スコル」


 俺が確認すると、スコルは笑顔を見せた。


「はい、ラスティさん。ストレルカさんのおかげで回復しました。といいますか、ストレルカさんって回復魔法を使えたんですね」



 俺とスコルの視線が集中して、ストレルカは顔を赤くした。



「こ、これくらいなら、わたくしにだって出来ます。そ、その……そんな見つめられると困ります」



 恥ずかしがって背を向けるストレルカ。いや、でも彼女のおかげで本当に助かった。俺は回復魔法は持っていないからな。


 ――さて、そんな中でも移住希望者は増え続けていた。爆伸びしているッ!



【島国ラルゴ:移民募集中!(12449/30000)】



 なんといつの間にか万超え。

 移住者一万二千名も出ていた。

 いくらなんでも早すぎだが、それほどドヴォルザーク帝国に不満を持つ住人が多いというころだろう。さっきみたいな傲慢ごうまん貴族も多いしな。



「よし、今日はもう日も暮れる。ホテルへ戻ろうか」



「「はいっ」」



 二人とも良い返事だ。



 * * *



 移民募集は、しばらく自動で行われるようだ。三万人に達すれば、その時点で募集は終了。とりあえず、帰還の予定のあと二日後。


 それまでに達成できるといいな。



 ホテルへ戻り、一泊した。

 次の日の朝。



 数字が気になって、俺は世界ギルドの場所へ向かった。もちろん、スコルやストレルカも一緒に。



「どれ、どうなった?」



【島国ラルゴ:移民募集中!(21994/30000)】



「わぁ! ラスティさん、もう二万人もいますよ!」

「マジじゃん」



 これは驚いた。昨日は一万人だったのが、更に一万人増えていた。まてまて、どこからこんなに希望者が増えているんだ。

 疑問に思っていると、ちょうどギルドの受付嬢であるトレニアさんが通りかかった。



「おはようございます、ラスティ様。それにスコル様にストレルカ様」


「やあ、トレニア。ちょっと聞きたいんだけど、この移民募集ってここだけの募集じゃないのかい?


「ええ、違いますよ。世界ギルドは“世界中”にありますからね。現在は、ドヴォルザーク帝国、グラズノフ共和国、神聖王国ガブリエル、そして、エルフの国ボロディンにもあるんです」



 へぇ、そうだったのか。以前は、帝国と共和国だけにあると思っていたが、いつの間にか拡大していたのか。

 トレニアさんによれば、他の世界ギルドから通じて移民希望者が申請しているとのこと。そりゃ世界規模なら、殺到するわけだ。


 だけど、更なる疑問があった。


「なあ、トレニアさん。許可証ってドヴォルザーク帝国のみ有効だよね」

「ええ、なのでドヴォルザーク帝国の住人のみ対象です。ですから、冒険者の中には帝国出身の方達もいらっしゃいますから、申請だけ・・・・は可能なんです」


 なるほど、そういう理屈か。

 つまり、共和国にいる生まれが『帝国』の冒険者が世界ギルドを通じて、移住希望を申請している――と。


 となると、一度こちらへ帰ってくるってことになるのか。遠くからわざわざ移住してくる人も考えると船が必要か。そうなれば、ストレルカの出番か。


 なんだかんだで船は必要だったわけだな。


「ありがとう、理解した」

「いえいえ、また何か困ったことがったら、おっしゃってくださいませ」


 笑顔で去っていくトレニアさん。朝から癒されるなあ。なんて、彼女を見つめていたら、スコルとストレルカから怒られた。


「ラスティさん。デレデレされると嫌です」

「そうですよ。わたくしたちがご不満ですか?」


 しまった、ちょっと鼻の下を伸ばし過ぎたかな。でも、トレニアさん可愛くて魅力的だからなあ。あんなギルドの受付嬢がウチにも欲しいな。ていうか、ギルドマスターらしいし、明らかに有能。いつかスカウトしてみようかな。

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