移民募集と伝統料理
移民募集は、まだ続く。
この分なら最大数の“三万人”の希望者を出せるかもしれない。それまでは、ゆっくり眺めているか、それとも帝国観光か。
ひとまず、冒険者の憩いの場――広場で腰を下ろしていた。スコルが肩と肩をぴったりくっ付けて密着してくる。
「ストレルカさんが買出しに行っている間だけですけどね」
そう、ストレルカは昼ご飯を買いにいった。俺が行こうと思ったら、気を遣ってくれたのだ。今は移民募集に集中して欲しいからと。
お言葉に甘えて、俺は掲示板を眺めていた。数字はどんどん上昇し、五千人を超えたところだった。それほどドヴォルザーク帝国に不満を持っている人がいるんだろうな。
【島国ラルゴ:移民募集中!(5732/30000)】
「これで島に人口が増えて、国っぽくなるな」
「はいっ、人が増えれば農業とか楽になりますし、それに賑やかでいいですよね」
「そうだな。さすがに十人程度ではあの島を管理するのがなあ」
「空いている家も多いですし、手入れも大変ですもんね。農作物の収穫とか、魚介類の調達とかやることが多くて……」
それが多くの人数で分担できれば、負担も減る。特にスコルには、料理や家事を頼んでばかり。申し訳なく思っていた。せめてメイドとか執事を雇えればいいんだけどな。まあ、この移住が決定すれば、誰かしら迎えられるだろう。
「ああ、まだまだ課題は多いな」
「テオドールさんは、テイマーのお店、錬金術師のお店、鍛冶屋をやりたいそうですよ~」
アイツは、器用なヤツだからな。なぜか三種の
でも、いるもんは仕方ない。
現実を受け入れるしかない。
「まあ、お店をくらい設置は楽勝だ。帰ったら作ってやるか」
「わたしも手伝います」
そう優しい言葉で、スコルは俺の手を握る。……突然で俺はドキドキする。今日もスコルは良い匂いがして柔らかい。
「うん、スコルの助けが必要だ。俺は、その……スコル」
つい、俺はスコルを押し倒してしまった。勢い余ってのことだった。だけど、スコルもまんざらでもない表情で迎えてくれた。
「そのぉ……ラスティさん、ここ多くの冒険者さんがいますから、恥ずかしいです」
「でも、我慢できないんだ」
「仕方ないですね。はいっ」
俺の頭を自分の胸元へ寄せるスコル。顔が柔らかい物の中に沈み、俺は頭が真っ白になった。……え、俺、今もしかしてスコルの胸の中に……たぶん、そうだ。
あまりに弾力があって、ふわふわして――天国すぎた。
「……そ、その。大胆だな、スコル」
「えっ、こうして欲しかったのでは!?」
「いやぁー…、俺はてっきりキスとか」
「はぅ! そうだったのですね。わたしってば……ごめんなさい」
「いや、いいんだ。結果オーライだ」
時間の許す限りずっと、こうしていたい。だけど、ストレルカがぼちぼち帰ってくるだろうし、このまま危険だ。
非常に名残惜しいが、俺はスコルから離れた。そのタイミングで、ちょうどストレルカが戻ってきた。……あっぶねぇ。
「ただいま戻りました。……あら、ラスティ様もスコルさんもどうか、したのですか?」
「いや、こうしてゆっくりするのも久しぶりだったからね。疲れていたのかも」
「なるほど! では、後でわたくしがラスティ様をハグして差し上げます」
「マジ!? ま、まあ後でね」
ギリギリ平静を装い、なんとか無難に返答した。ま、まさかストレルカが誘ってくるとは。ハグかぁ、絶対気持ちいし、癒されるだろうなあ。
「それでは、この『トルティーヤ』をいただきましょう。はい、ラスティ様とスコルさん」
おぉ、これは、薄いパン生地に野菜とか肉とかギッシリ詰まった料理だぞ。一口で濃厚な味わいだから好きなんだよなぁ。
俺もスコルも受け取った。
両手で掴むほどのビッグサイズ。
具材が溢れんばかりに詰められている。
「わぁ、美味しそうですっ」
「そうだな、スコル。いただこう」
「「「いただきま~す!」」」
ドヴォルザーク帝国の伝統料理、トルティーヤを頬張っていく。……うめぇっ!
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