移民募集許可証と巨大掲示板
ルーシャスの姿はなく、周囲を探そうにも聖騎士達が騒然としていて近寄れない。散々暴れ回ったから、俺たちは敵認定されているだろう。これはもう無理だな。
仕方ない、承認は諦めよう。
他の方法を考えるしかない。
しかし、どうする。今のままだと移民募集の許可は出ないだろうし、一度、ギルドの受付嬢・トレニアさんに相談してみるか。
「二人とも一度、世界ギルドへ向かうぞ」
スコルもストレルカもうなずく。決まったからには、さっそく向かう。レオポルド騎士団を去り、街へ向かう。
多くの騎士とすれ違いながら先へ急ぐ。そうだよな、騎士団であんな事件が起きれば、緊急招集が掛かるよな。もうドヴォルザーク帝国にいられないかもしれない。早く移民を募らないと。
* * *
世界ギルドに到着。
今日も多くの冒険者で賑わっている。あらゆる職業、種族が受付嬢からクエストを受注したり、モンスターの情報を聞いたりしていた。
さて、トレニアさんは――いた。
彼女の元へ向かうと、トレニアさんもこちらの存在に気付いた。
「皆様! ようこそ、世界ギルドへ。お待ちしておりました」
「ん、お待ちしていた?」
「はい、ラスティ様。移民募集の件ですよね?」
確認するようにトレニアさんは、宝石のようなキラキラした瞳を俺に向けた。そんな純粋な眼を見つめられると照れるな。
「そ、そうだ。騎士団長の承認は得られなかったんだ。だから……」
「いえ、騎士団長の承認は得られました。アルフレッド・スナイダー様のサインを戴きましたし、これで問題なく募集できますよ」
トレニアさんは、さも当然のように『移民募集許可証』を俺に手渡そうとする。……あれ、待て。ルーシャスには、この事を話せなかったのに。
【移民募集許可証】
【詳細】
ドヴォルザーク帝国および領地のみ有効。移民の募集が可能になる。有効期限は一ヶ月。移民は最大三万人まで移住可能とする。
犯罪者、特定テイムモンスターや奴隷は移住できない。ただし、帝室クラスの許可があれば移住可能となる。
三万人を超えた場合、この許可証は失効、消滅する。
これが許可証。
アイテム扱いなんだな。
微量の魔力を感じるから――そうか、魔法が掛かっているんだな。でも、なんで許可されたんだ?
「待ってくれ、トレニアさん。俺は騎士団長に話しを付けられなかったんだ。それどころか、すっかり忘れて戦闘を……」
「それでさっき聖騎士様達が慌しく騎士団の方向へ向かわれていたのですね」
「そうなんだ。でも、助かったよ。これで募集していいんだよね」
「はい。問題ありませんよ」
「けど、なんで許可証が?」
「はい、それなのですが、さきほど白髪白髭のカッコいいおじさまが現れて、許可を出してくれたんです! なんだか、すっごく優しい瞳をしていました」
マジかよ。ということは、ルーシャスがこの世界ギルドに来ていたのか。あの爺さん、いつの間にかいなくなったと思ったら、こんなところまで先回りしていたんだな。あんな敵対行為な姿勢だった割には、協力的だな。
「ラスティさん、それってルーシャスさんですよね」
「そうだろうな。あの爺さん、何を考えているんだかな。うーん……」
とにかく、今は移民が最優先だ。
トレニアさんの説明を受けると、どうやら許可証を使うと自動で募集が掛かる仕組みになっているようだった。
世界ギルドの前にある『魔導式・巨大掲示板』に情報が乗るとか何とか。へぇ、あのギルドの前にあった板って、そういうことか。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。ありがとう、トレニアさん」
「いえ、こちらこそです。またご利用下さいねっ」
いったん、トレニアさんと別れ――俺たちは外の掲示板へ向かった。
「あっ、ラスティ様。あれではありませんか?」
ストレルカの指さす方向には、一般家庭にある扉十枚分ほどの“掲示板”があった。そこには、ギルドメンバーやパーティメンバーの募集がズラリと並んでいた。なるほど、冒険者はこうやってメンバー募集を探すわけか。
俺は冒険者じゃないからな、こういうことには
掲示板の前にいる受付嬢に『移民募集』を申請した。島国の名前は【ラルゴ】で登録した。アルフレッドから教えて貰った大切な言葉を引用したんだ。意味は“
すると、数秒であの掲示板に『移民募集中』のメッセージが表示された。
【島国ラルゴ:移民募集中!(0/30000)】
「便利だなぁ。こんなデカデカと載るのかよ」
「わぁ、あんな風に出るんですね」
俺もだけど、初めて掲示板を目にするスコルも驚いていた。あの(0/30000)というのが移民希望のカウントになるようだな。分かりやすくて助かる。
ひとまず、近くのベンチに腰掛けて状況を見守る。左にスコル、右にストレルカ。挟まれた。
「あ、あの……二人とも近い」
「ラスティさん、膝枕してくださぁ~い」
ふにゃ~と
「スコルさん、だらしないですよ! そ、その……わたくしだって、ラスティ様に抱きつきたいんですからっ。我慢しているんですから!」
そうだったのか。
でも、スコルは可愛いな。すっかり俺の膝の上に頭を乗せて、気持ちよさそうに寝ていた。あまりに可愛くて頭を撫でてしまった。
「えへへ……」
「ちょ、スコルさんばかりズルいです! ラスティ様、わたくしには何かしてくれないですか!?」
もう十分、密着しているけど!?
ストレルカは、既に俺の肩のところに頭を乗せて来ていた。身動き出来なくなった。まあいいか、今は移民希望者を待つだけ。
ほのぼのしていると、数字が増え始めていた。
【島国ラルゴ:移民募集中!(19/30000)】
【島国ラルゴ:移民募集中!(34/30000)】
【島国ラルゴ:移民募集中!(88/30000)】
【島国ラルゴ:移民募集中!(137/30000)】
【島国ラルゴ:移民募集中!(391/30000)】
結構な勢いで増えてるなぁ。
こりゃ、最大の三万人もいくかもな。
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