動き出す支配王
立ち上がり、帰ろうと思って――ふと気づいた。
「どうやって帰ればいいんだ……?」
島の時はエドゥがいた。
彼女にテレポートしてもらい、ドヴォルザーク帝国へ飛ばして貰った。だけど、帰りもエドゥがいないと転移できない。
「そ、そうですよね……ラスティさん。エドゥアルドさんのテレポートで来たんですもんね。どうしましょう」
「お、落ち着けってスコル。とにかく、帰る手段を考えよう。ストレルカ、なにか方法はないか?」
「ええ、テテュス号を呼ぶことも可能ですが」
「マジかよ! オケアノスの力はそんなことも可能なのか」
ストレルカによれば、大精霊オケアノスの神秘の力により自動運航も可能らしく、船を呼び寄せることもできるらしい。
ただ、俺の島からこのドヴォルザーク帝国までは最速でも
「三日かぁ。それまで帝国に留まるしかないようだな」
「はい……申し訳ないのです」
「いや、帰る手段があって良かったよ。ありがとう、ストレルカ」
「い、いえいえ……」
なんだか頬を赤くして照れるストレルカ。次回からは船に決定かな。――さて、そうなるとこの広場に留まっていても仕方がない。
ぼちぼち夕刻だし、日も暮れる。
早打ちに宿屋を探さないとな。
「それじゃ、ベルリオーズ金貨も十分にあるし、どこかへ泊まるか」
そう提案すると、スコルとストレルカが顔を輝かせた。
「ラスティさん、それってつまり、帝国観光していいってことですよね?」
「ああ、そうなるな、スコル。三日は滞在することになるし、しばらくはドヴォルザーク帝国のあっちこっちを回って、買い物でもするか!」
「お買い物っ! やったっ……可愛いお洋服とか、装備とか買っていいです!?」
「たまにはいいだろう。今の内にアイテムをたくさん買っておくか。どうせアイテムはゲイルチュールの専用アイテムボックスに大量収納できるし」
「おぉ!」
俺の手を握りブンブン振るスコルは、嬉しそうに笑いテンションを上げていた。だけど、ストレルカも俺の腕を取る。
「スコルさんばかりズルいです! わたくしだってお買い物したいです。ね、ラスティ様」
「いいよ、なんでも買ってあげる」
「ほ、本当ですか! わたくし、家を追い出されてしまい一文無しでしたし、嬉しいです」
そうだった。
ストレルカは今日、ゲルンスハイム帝領伯から勘当を言い渡されたんだ。だから、今は家に戻れないし……頼れるところも俺しかない。
表にこそ出していないけど、本当は辛いはず。俺が支えてやらないとな。
「決まったところで宿屋へ向かおう」
と、言っても俺はずっと城暮らしで街のことには詳しくなかった。ちょうど世界ギルドも近いし、職員に聞いてみるか。
まずは職員のお姉さんに情報を聞き出した。
「でしたら、この先にあります『セレナード』がおススメですよ。上級冒険者から貴族の方までご利用なされますから」
どうやら、ここから見えている丘のところだな。塔のように大きな建物があるし、あれが宿屋っていうか『ホテル』らしい。
職員さんにお礼を言って歩いて向かっていく。
* * *
ホテル『セレナード』へ辿り着くと、そこにはレア装備を身に着けた上級冒険者のパーティやギルド、貴族が優雅に過ごしていた。
楽団が音楽を奏でているし、なんだか城時代を思い出すなあ。
「す、凄いです……ラスティさん!」
異様な空間にあわあわするスコル。いやいや、君もエルフの国にある宮殿暮らしのはずだけどね。島住民の感覚にすっかり染まったかな。
「ここは金のニオイがプンプンするな」
「ええ、ラスティ様。セレナードは五つ星ホテルで“パラス”の称号を得ているそうですよ」
「さすがに詳しいな、ストレルカ。泊まったことあるんだ?」
「い、いえ……その実は、ここでお見合いを度々させられて……はぁ、思い出すだけで憂鬱です」
そういう過去か。これ以上は、ストレルカの精神力を削いでしまいそうだ。話題を逸らす為にも俺は受付へ向かった。
大きな玄関口から入り、受付へ。
受付には、エルフのお姉さんがいた。へぇ、ここの受付はみんなエルフなんだ。
「いらっしゃいませ、お客様。こちら、ひとり様一泊300000ベルとなっております。VIPルームとなりますと1000000ベルですが、どちらをご利用ないますか?」
一泊300000ベルもするのか。VIPルームが1000000ベル。恐ろしい金額だな。今回は通常料金でいいな。
それにしても、さすが高級ホテルなだけある。金貨の枚数にして3枚だから余裕だけど、今回は三人だから金貨9枚か。
「それじゃ、ベルリオーズ金貨9枚を支払う」
「通常のお部屋ですね。はい……確かに。では、こちらがカギとなります」
カードタイプのカギを受け取った。ピカピカ輝いてまぶしいな。その光につられるように覗き込んでくるスコル。
「わぁ、ラスティさんそれってカギなんですか? 金色じゃないですかあ」
「これがカギとはねえ」
感心しながら階段を目指すが、ストレルカに道を阻まれた。なんぞ?
「ちょっとお待ちください」
「どうした、ストレルカ」
「ええ、実は案内を見たんですけれど、このホテルは最大ニ十階まであるようです。そこまで階段を使うなんて大変ですから、あちらにある“転送”を使いましょう」
ストレルカの指さす方向へ視線を向ける。すると
エインヘリャルは【Ψ】だから……別物か。
とにかく、あれが“転移”の魔法陣なんだな。確かに他の冒険者が乗り込んでは、姿を消していた。便利な魔法があるんだな。いったい、誰が作ったんだろう。
そんなことを考えながら、転移魔法陣へ乗り込んだ。
「……おっ? 一瞬で到着か」
「見て下さい、ラスティさん。お外があんなに高いです!」
十階ほどの高さにいるらしく、ドヴォルザーク帝国の街並みが見渡せた。これは絶景だな。ストレルカも外の風景に見惚れていた。
外を眺めていると、ドラゴンらしきものが夕焼けに向かって飛翔しているような光景が見えた。なんだか幻想的な絵だな。
部屋に向かい、カードキーをかざす。するとカチャっと開いた。これも魔法の一種なのかな。不思議な力だな。
部屋の中に入ると、そこは広すぎる豪華な空間があった。ベッド広っ! 机も椅子も綺麗に並んで……広間じゃないか、これ。
「わぁ! ラスティさん、すっごぉぉい!」
スコル、それだと俺が凄いみたいだぞ。凄いのはホテルだ。これは高いだけある。すべてが宝石のようにキラキラと輝いているように見えた。
豪華なティーセットもあるし、本もたくさん。こんな眺め良い場所で寝泊まりできるとはね。
ふかふかのベッドにダイブすると、スコルもストレルカも乗ってきた。広いなぁ、三人でも広いとか……すげぇや。
ぼうっとしていると、急に“頭痛”がした。
「な、なんだ……?」
脳内に声が響くような。
って、これはまさか!
『ラスティ様、ラスティ様! 聞こえますか』
「こ、この声はエドゥか!」
『はい、テレパシースキル『ソウルウィスパー』で通信しています。感度は良好でしょうか』
「ああ、問題ない。それでエドゥ、どうした」
『ええ、実は島で大変なことが』
「なんだって? 何があった?」
『実は――』
エドゥの緊急連絡に、俺は青ざめた。
ニールセン、もう動いていたのか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます