勇者の契約・神器プロメテウス
※ルドミラ視点
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この島は、他の国とは違った強力な防衛力がある。ラスティくんの『無人島開発スキル』なる奇跡の力によって島は非常に安定していた。
「行っちゃったねえ、ルドミラちゃん」
エドゥは、素の表情でニコニコ笑う。本来はキャピキャピした性格なのに、ラスティくんを前にすると緊張するようだ。それを誤魔化すために真面目な性格を演出しているようだけど、もう猫を被らなくてもいい気がする。
「ええ、ラスティくんならきっと大丈夫でしょう。テオドールもそう思うでしょう」
「さて、どうかな。彼は肝心なところで抜けている気がする」
「どういう意味です?」
「帰りのことを忘れている。エドゥを連れていくべきだったんだ」
あー…、なるほど。
帰りにエドゥがいないとテレポートできない――と。それは困った。これでは、ラスティくんたちは帰って来られない。
「エドゥ、今すぐにラスティくんを追うべきです」
「大丈夫。そのうちソウルウィスパーで通信するから」
「ですが……」
「元副団長の自分がいては騒ぎになっちゃうし、今は三人にしてあげよう~」
少々不安もある。けど、エドゥがそういう言うのならと私は強く要求しなかった。
「分かりました。となれば、私は島の警備を……ん? ハヴァマールさん、私を見つめてどうしたのですか」
ラスティくんの妹君、ハヴァマールが驚いた顔でこちらを見つめていた。
「ルドミラ、大変なのだ。島の外に
「……! まさか、また敵襲ですか」
「ああ、余にはある程度の気配が探れる。これは“敵”で間違いない。エドゥも感じているのではないかな」
そう話を振られ、エドゥは「お客様だねえ」と笑う。ついさっき、ラスティくんが奴隷商人を追い出したばかりだというのに、また来客。
だけど、島を守護するのが私の義務なのだ。
「城を守らねばなりません。ハヴァマールさんとテオドールは残ってください」
二人とも素直にうなずく。
この二人だけを残すのは正直心配だけど城は鉄壁だ。ゴーレム兵にアクアナイトが城内をウロウロしている。並の冒険者にアレは倒せない。上級者でも骨が折れるはず。
それは長年、世界を旅した経験則からも理解できた。
なら、私は島を守る。
* * *
海へ出て浜辺に出た。
そこでは、大砲三門、ボウガン三門が世話しなく砲撃を続けていた。敵はたった一人で砲弾や矢を破壊し尽し、余裕の笑みを浮かべていた。いったい、何者だ。
「面白いオモチャだった。だが、この程度の兵器ではオレは倒せねぇぜ」
ニヤニヤと笑い、立ち尽くす青年騎士がいた。SSS級の武具装備で全身を固めているようで、剣も見たこともないような異形をしていた。
コイツ……血の臭いがする。
「貴方は何者です? 先ほどの神聖王国ガブリエルの関係者ですか」
「そうとも。その神聖王国ガブリエルの騎士さ。オレは、あの奴隷商人共がしくじらないか遠くから監視していたわけさ」
「それで、何用ですか。もう用件が済んだのなら帰りなさい。ここは、ある方の島ですよ。不法入国は許されません」
「不法入国だぁ? 国でもないこの島が? 笑わせるなよ。それに、お前達は“使者”を攻撃した。これは紛れもない敵対行為。戦争のはじまりを意味する。馬鹿だったな、あの男は。普通、一国の主は冷静に行動し、戦争をする口実を与えないものだぜ」
もっともだ。だが、奴隷商人を使者として寄越す神聖王国ガブリエルもどうかと思う。それも五人も献上するとは下衆の極み。
この男もまともではないのは確かだ。
「警告は一度だけです。さっさと出て行かなければ、死を招きますよ」
「死を!? このオレに死ィ!? 上等だァ!」
剣を抜く青年。
――いや、あれは剣というより!
「そ、それは……!」
「そうさ、これはとある国にしかないSSS級の『ドウジギリ』だ。これは子供を何百人と惨殺したと言われている
なんと悪趣味な武器。
そうか、道理で血の臭いがしたわけだ。それに、あの赤い刀身。人間を切りまくった結果、血で染まったような――そんな鮮血に染まっていた。
あの武器のせいか、異様な空気に包まれつつあった。エドゥが息苦しそうに口を開く。
「ルドミラちゃん、あの男は排除しないと……」
「分かっています。エドゥは下がっていてください。手出し無用ですよ」
「うん。でも、エインヘリャルを過信しすぎないでね。不老不死とはいえ、やりようによっては殺されるから」
「心得ています。では――」
駆けだして男の前に立つ。
ヤツは不敵に体を揺らし、カタナを構えた。
「さあ、女。貴様の武器を見せろ」
「言われなくとも“神器プロメテウス”を
魔力で武器を生成召喚。
その武器を手にした。
「ほう、それが武器……
「そうです。これは神器プロメテウスのアックスフォーム。私は優しいので忠告しておきますが、火力重視なので厄介ですよ」
「斧……女騎士が斧とは、これは面白い!!」
地面を蹴り上げ、男は風となって接近してきた。早い。なんて突風のようなスピードだ。カタナが首元へ向かってくるが、私は仰け反って回避。そのまま距離を取った。
「良い太刀筋ですが、私には当たりませんよ」
「なッ! このオレが外した、だと!?」
私はそのまま斧の形を膨らませ、巨大化させた。そう、この神器プロメテウスは様々な武器形態を持ち、自由自在に形を変えられるのだ。
今は、大戦斧となり男の頭上へ落ちようとしていた。
「ヘルズイラプション!」
斧専用スキルを叩き落とす。
男は、男なりに抵抗してカタナで受け止める。なるほど、耐えるだけの力はあるようだ。けれど、神器プロメテウスは更なる変形を始め――鎖をいくつも放出。刀を絡めとっていった。
「ばばば、馬鹿な! なんだその武器は……斧かと思えば、今度は鎖ィ!? なんでそんなモンが出てくるんだ!!」
「神器プロメテウスは、あらゆる武器になれるのです。私の意思に応え、神器もまた意思を持ち、私を守護する。それが
「ゆ、勇者……ま、まさか! 貴様、貴様はあああああああああ!!」
「今頃気づいたのですか。我が名はルドミラ。それだけで十分でしょう」
「お前が! ビキニアーマーの貴様がぁ!? ふざけるな!! こんな女に魔王は倒されたというのか!! 認めん、オレは認めんぞ。ならば、あの少女を!!」
私のスキルを受けて余裕がないはずなのに、男は魔力を使い、姿を消した。避けられた……転移魔法か!
男はいつの間にかエドゥを人質にしていた。
「エドゥ!」
「ふはははは! 驚いただろう、ルドミラ。この少女はオレのモンだぜ」
「貴方、テレポートが使えるのですか」
「いいや、オレが
なるほど、防具の効果か。
それで異常なスピードで逃げ出せたわけか。
「すみません、エドゥ。直ぐ助けますから」
「ル、ルドミラちゃん……自分の方こそごめんなさい。油断していました」
「いえ、エドゥのせいではありませんよ」
私は、悪魔のような笑みを浮かべる男を睨む。
「さあ、どうするルドミラさんよォ! この少女が大切だよなぁ……どれ、少しだけ味見してやろう」
カタナでエドゥの腕を切りつける男。血が零れていく。彼女は泣いて必死に痛みに耐えていた。不老不死とはいえ、痛みまでは制御できない。痛いものは痛いし、辛いものは辛い。
「男。お前はやってはならない事をしてしまった。秒で殺す」
「はぁ!? この状況見て言ってんのかよ!? いいか、一歩でも動けばこのガキが死ぬ――ううぅうおおえええええええ!?」
その直後には、男の右腕が吹っ飛んでいた。私は怒った。心の底から怒って本気を出した。こんな激情に駆られるのは何十年振りだろうか。でも、許せなかった。仲間が、エドゥが傷付けられて。
そうだ、私は随分と腑抜けていた。
帝国で騎士団長をして、この島に流れ着いた。随分と長く“人間を守る”という行動をしていなかった。今までは戦いに身を投じ……敵国の兵士をただ薙ぎ倒し、一方的に
私は、大切な仲間を守るためにこの神器を振るう。
「大丈夫ですか、エドゥ」
「う、うん。ルドミラちゃんが守ってくれたから……ていうか、今のまったく見えなかったんだけど!?」
「毎朝、牛乳を飲めば誰でも出来ます」
「ウソぉ! でも、ありがとうね」
腕の傷が癒えていく。
同じ力を持つ者が触れ合えば、治癒能力も倍となる。エドゥの酷いケガは、もう塞がって回復した。さすが、エインヘリャルの力。
……さて、あの男をどうしたものか。
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