帝国最強の聖騎士?
徒歩で三番街の中央噴水広場へ。
そこに『世界ギルド』はあった。
噴水広場の周りには多くの冒険者。高レベルから低レベル、高級な装備をした者からそうでない者。あらゆる人種が
あっちこっち歩いているし、ギルドやパーティも多く滞在しているな。
「わぁ、なんだか人の多い場所なんですね」
「そうだな、スコル。俺も始めて来たけどカーニバルみたいな騒ぎだ。これほどとは舐めていたよ」
露店もあるし、レア装備が売っているな。へぇ、お金があったら欲しいアイテムもある。今は買わないけど、そういえば以前に入手した『ベルリオーズ金貨』にまったく手をつけていなかった。そのタイミングもなかったというか。
今こそ帝国でレアアイテムを買うチャンスだけど、後にしよう。今はそれよりも世界ギルドだ。
ギルド職員に交渉して、移住者を募れないか聞いてみるか。
人波を掻き分けて建物の前に到着。
世界ギルドは、屋敷のように巨大で何百人も収容できそうな空間があった。これは金が掛かってるな。開いている出入口から入り、中にも驚く。
冒険者が何十人といる。
ギルド職員が対応に追われて大変そうだ。……開いている窓口は――お、あの隅は並ばずに行けるようだな。あの女性の職員さんのところにしようっと。
俺はそのまま窓口へ向かい、職員の人の前に立った。へぇ、ライムグリーンの髪の毛とか目立つな。それに、服装だ。メイドっぽい服で可愛い。
それにしても……あれ、なんだか反応がないな。
「……あの、ギルド職員さんですよね?」
「はい、そうです。ようこそ、世界ギルドへ。ご用件はなんでしょうか」
なんだ普通に返してくれたじゃないか。気のせいか。
「えっと、ギルドメンバーとかパーティメンバーではなく、移民の募集をしたいんだけど、そういうのって可能かな」
「……い、移民の募集ですか。確かに、今は壊滅した連合国ニールセンから移住者が増えております。帝国には余裕はありますが、他国への受け入れ先も必要だと感じていますね」
「おぉ、なら可能かな」
「可能か不可能かで言えば、可能です。ですが、その受け入れ先が国でないと無理です。失礼ですが、貴方はどこかの国の王様とかに見えませんが」
疑惑の眼差しを向ける職員さん。ある意味では王様かな。俺が管理している島だし、間違ってはいないはず。
「俺は島を持っているんだ。いずれは島国になる。おそらく百万人は住めると思うんだが、今のところ十人程度しか住んでいなくてね」
「はい? そんな島があるんですか? 聞いた事ありませんよ。からかっているなら、時間の無駄なので止めて下さい。どうぞ、お引き取りを」
「いや、本当なんだけど」
「信じられるわけないでしょう。もういいですから、帰って下さい」
信じて貰えるわけがないか。
他の手段を考えるしかなさそうだなと背を向けた直後、俺とすれ違った人物がいた。男だ。その男の腰には貴族を表す装飾のなされた剣。
青と紫の混じった髪色の青年。
彼は自身に満ち、ギルド職員の女性を睨んでさえいた。なんだか変わった雰囲気だな。
「よう、トレニア! 相変わらず、世界ギルドの“ギルドマスター”か」
「……アレクサンダー!」
「おいおい、トレニア。俺様の名は『アレクサンダー・フリードリヒ・ヴィルヘルム・アルブレヒト・ゲオルク・フォン・ヘッセン』だ! 覚えたか!」
名前長っ!
思わず『プッ』と吹いてしまった。
それを聞かれてしまい、アレクサンダーとかいうヤツが俺の方へ駆け寄ってきた。
「げっ!」
「貴様ァ! 今、俺様の名前を聞いて笑ったな!!」
「いや、だって長すぎだろ」
「馬鹿にするな。これでも帝国最強の聖騎士だぞ! 貴様のような貧弱な男など一撃で
自身満々に剣を抜くアレクサンダー。こんな場所で抜くなよな。背後にいるスコルが怯えているし、ストレルカも飽きれている。
「ラスティさん……」
「心配するな、スコル。トラブルにするつもりはないよ。話をつけてくる。
「……はい」
俺はストレルカにも待つように指示した。
「分かりましたが、あのアレクサンダーは、わたくしも名前を耳にした事があるほどの凄腕の騎士ですよ。騎士団長クラスの力を持つと風の噂を……」
騎士団長クラスだと?
つまり、あのルドミラに匹敵するというのか。それとも前任の騎士団長のことか? どっちか分からないが、ルドミラを基準にするとヤバいな。
あれは『勇者』だからな、ステータス補正が違い過ぎる。
なんであれ、話をつけるしかない。
「聖騎士さん、貴方と争うつもりはないよ。笑ったのは悪かった」
「それで許すと思うか! 聖騎士に対する侮辱は重罪だぞ。貴様のようなゴミ冒険者など皇帝陛下より拝領した宝剣“トキシン”の餌食にしてやろう」
その剣の刃は、ゾッとするほど毒々しい。なんだ、あの青紫のドロドロした模様。混沌としているな。こちらも『ゲイルチュール』を召喚し、担いだ。
「こっちはこれだ」
「つるはしィ!? わははは、ザコ冒険者にお似合いの武器だなァ!」
「ああ、そうかもな」
特に構えもせず、俺は立ち尽くす。
ギルド職員のトレニアが割って入る。
「やめてください! アレクサンダー様! 世界ギルドで武器を振るのは禁止されていますよ。たとえ聖騎士である貴方でも許されません。直ぐに騎士団長が……あっ」
「今のレオポルド騎士団に騎士団長は不在なんだよォ! 邪魔するんじゃねえ、トレニア!」
容赦なくトレニアを突き飛ばすアレクサンダー。倒れた彼女を何度も何度も踏みつけ、ついにはあのトキシンとかいう剣で腕を切りつけていた。
「きゃっ!!」
「ふははは! トレニア、俺様の
「そ、そんな……」
アレクサンダー、なんて野郎だ。
聖騎士のくせにギルド職員に手を出すとは……これだから、帝国は! ああ、そうだった忘れていたよ。あのクソ兄貴といい、ヨハネスといい、ロクな連中がいないという事を!!
「おい、アレクサンダーなんとか!!」
「なんとかだァ!? ふざけんな、また侮辱しやがって、貴様も直ぐに毒の餌食にしてやらああああああああ!!」
電光石火の勢いで向かってくるアレクサンダー。なんて素早い動きだ。だけど、俺にしてみたら、それほどではない。
余裕で回避し、場所が入れ替わった。
ヤツの背後が出入口となった。人の往来も少ない今がチャンス。
向こうは聖騎士だが、俺もただ島でダラダラしていたわけじゃない。大自然で鍛えられた肉体を舐めるな。
ゲイルチュールに『風属性』を
微量だった魔力が一気に加速し、つるはしの先端に集中する。俺にできる技はこれくらいだが、一点を極めることでそれより強力な一撃を放てるようになっていた。
まさに極意。
一撃必殺の大技だ。
「サンダーブレイク!!!」
先端から雷撃を放った。だが、アレクサンダーはあのトキシンという剣で防御した。……なっ! 俺のスキルを――なんてな。
こんな事もあろうかと、ハヴァマールから『聖槍』を受け取っておいて良かった。
――三日前。
「兄上、兄上!」
「なんだ、ハヴァマール。俺は今、湖の橋を作っていてだな……」
「分かっているのだ。でも、聞いて欲しいのだ」
ハヴァマールは、俺の手を“ぎゅっ”と握り、目をウルウルさせていた。そんな子供のように見つめられると聞くしかない。
「で、なんだ」
「聖槍グングニルを受け取って欲しいのだ」
「グングニルを? でも、それってハヴァマールが魔力で召喚する武器だろ? 受け取るとか出来るのか」
「うん、移植できるのだ」
「移植、ねぇ……どうやって?」
「それは……」
まさかあんな移植方法だとは思わなかった。でも、おかげで俺は今、聖槍グングニルが使えていた。今こそ使わせてもらうぜ、ハヴァマール。
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