騎士団長と副団長
エドゥとテオドールの帰りを待つこと一時間。どうやら、元奴隷の女の子達を家に案内して生活の仕方とかも教えたようだ。
これで彼女たちは普通に暮らせるだろう。
しばらくは様子見にして、俺は全員にさっきのことを話した。
「そういうわけで、まずはドヴォルザーク帝国へ向かう。異議のあるものは?」
――なし。
あとは同行メンバーだが、俺、スコル、ストレルカの三人で決定。
「って、余はお留守番か!?」
「悪い、ハヴァマール。お前はまだ魔王としての認識が強いんだ。特に、ドヴォルザーク帝国ではね。だから下手をすれば殺されるぞ」
「そ、それは困るのだ……」
かつて俺の親父は、ドヴォルザーク帝国の皇帝陛下だった。だけど、その正体は『魔王』だった。あのアントニンこそが魔王であり、ハヴァマールに不名誉を与えた張本人だ。
魔王なのだから、人間に化けてやりたい放題。
聖魔伝説によれば、一度は、ルドミラたちに押されて弱体化。死に追いやられたらしいが、世界聖書……実は『破壊の書』に“魔王ドヴォルザーク”の魂の一部を封印。その後は、ただの人間として皇帝陛下の座についていたようだ。いつしか“魔王ドヴォルザーク”として君臨する為に――。
思えば、俺はなんてヤツに育てられていたんだか。いや、正確に言えば、俺の親は『アルフレッド』といっても過言ではない。
俺をずっと傍で見守ってくれて、たくさん大切なことを教えてくれた。
……そうだ、アルフレッド。
アントニンがこの島に攻めてきて、彼は帰らぬ人に。
今は、湖の中心にある小島に作った立派な墓で永眠している。
あれから、しばらくは辛く、悲しい毎日を送ったけど、みんなに支えられたおかげで俺は今も何とか挫けずに前向いて生きていた。
みんながいなかったら、今頃俺は廃人になっていたかもな。
「そんなわけで、ハヴァマールはこの島を守ってもらう」
「分かったのだー…」
しょぼんと猫耳を垂らす我が妹。向こうで散々な扱いを受けるよりはマシだろう。
「あと、ルドミラとエドゥ、そして、テオドールだが」
先にルドミラが反応した。
「こちらは気にしないでいいですよ。私は帝国の騎士団長ではありましたが、三日前、正式に辞任しましたから。これで晴れて私はこの島の住人です」
「騎士団長を辞めちゃってよかったのか?」
「はい、もともと私は騎士団長代行のような存在でした。
ルドミラの前任の騎士団長らしい。理由は分からないけど、しばらくの間はルドミラに騎士団長の席を譲っていたようだが。
俺は前の騎士団長は見たことがないんだよな。
「そうか。後はエドゥだが」
副団長であるエドゥもレオポルト騎士団を退団した。そのせいか、騎士団は混乱中らしい。トップがいないのも異常だが、副団長すらいない異様な状況となっていた。
「自分も帝国に未練はないです。今後、ラスティ様の背中を支えますので」
「分かった。となると、テオドールは特にないか」
一応、話を振るとテオドールは憤慨した。
「特にないとは失礼な!」
「す、すまん。でも、テオドールってボロディンにいたじゃないか。ほぼ無関係では」
「その通りだ!!」
「なんでそんな自信満々なんだよ!?」
じゃあ、やっぱり無関係じゃないか。
「いや、そうでもない。ルドミラとエドゥをレオポルト騎士団に紹介したのは、この私でね。もともとはドヴォルザーク帝国の『城塞伯』だったんだよ」
「そうだったのか!?」
「百年前にだけどね。でも、アントニン皇帝に勇者ルドミラとの関係がバレちゃってさ。それで帝国を追放された過去がある」
マジか。
テオドールってドヴォルザーク帝国出身だったのかよ。意外な事実が発覚した。そうか、騎士団に紹介したり、無関係ってわけでもないのか。
ちなみに、ルドミラはエドゥの力で名前や外観を変える魔法を使って、皇帝を含む周囲から正体をバレないようにしていたらしい。
そういえば、帝国は何気に『勇者』と『魔王』が実質協力関係になっていた時期があったわけだ。しかし、お互い正体が分からなかったようだし、まさか皇帝陛下が魔王だとは思わない。
でも、世界聖書がキッカケとなって――あの決戦となった。
となると、ルドミラ達の知識もあった方がいいのかもしれない。連絡手段が欲しい所だな。
う~ん、と考えているとスコルの視線に気づいた。気になって俺は見つめ返した。すると、スコルは頬を赤くして困惑。なんなんだ~?
「どうした、スコル」
「い、いえ……何でもないんです」
「ん~? そうか。とにかく、この後直ぐに出発しようと思う。エドゥ、テレポートとか可能か?
「はい。この『島』と『帝国』をメモにしていますから、飛ばせますよ」
おぉ、なら移動は一瞬だな。
準備が出来次第、出発だ。
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