連合国ニールセンの秘密
ハヴァマールは少し青ざめていた。あんな余裕のない表情は初めて見たかも。
「どうした、ハヴァマール。なんだか言い辛そうだな」
「それもそうだ。これは兄上の問題にも繋がるのだから」
「俺の問題?」
「うむ。なんと言ってよいやら」
歯切れが悪いな。
なんだか聞かない方がいい気がしてきたぞ。でも気にならないと言えばウソになる。いったい、俺と神聖王国ガブリエルになんの関りがあるんだ?
「言ってみてくれ」
「う~ん、しかし……」
「頼むから」
「分かった。その神聖王国ガブリエルは、ドヴォルザーク帝国が裏で糸を引いているのだ」
「ドヴォルザーク帝国が? いやいや、連合国ニールセンは魔王アントニンが攻め滅ぼしたんだぞ。糸を引くも何もないんじゃないか」
「うむ。だが、神聖王国ガブリエルとして独立しているし、王も健在。これが何を意味するか」
どうやら、連合国が出来る前は、ドヴォルザーク帝国の元皇帝アントニンによる傀儡政権だったらしい。けれど、ニールセンが支配を強めていった。やがて、連合国として拡大。帝国に負けない武力や財を築いたようだけど――結局、魔王によって壊滅した。
という事らしいが、なるほど。あのアントニンがやりたい放題やっていたわけか。しかし、分からないな。
「俺となんの関係がある?」
「……」
それ以上、ハヴァマールは何も言わなかった。そこが肝心なんだけどな。
「教えてくれないのか」
「いいのだな」
「ああ、教えてくれ」
諦めたように溜息を吐き、ハヴァマールはようやく答えを教えてくれた。
「実は、そのニールセンこそが本物“第三皇子”なのだ」
ニールセンが……本物の第三皇子?
困惑しているとルドミラが席を立ち叫んだ。
「やっぱりそうなのですね! では、ラスティ様とニールセンは入れ替わっていたと!?」
「そうだ。兄上は、アントニンの子ではない。オーディンの子。どういう経緯で入れ替わったのかは、この余でも分からんが……つまり、そういう事だ」
そうか、それで俺と兄貴達は似ていなかったし、兄弟ではなかったんだ。そもそも、親父が魔王とか笑えねえ。
「そうか、でもスッキリしたよ。真実を話してくれてありがとうな、ハヴァマール」
「すまぬ。兄上にとっては問題の話だろうし、そのうち話すつもりではいたのだが……」
ショボンと肩を落とすハヴァマールだが、俺は正直嬉しかった。こういう重い話は、大抵先延ばしにされるか、はぐらかされるもの。俺はそういう、まどろっこしいのが嫌いだった。
「そうか、そういう事だったとはな」
「……兄上、黙っていてごめんなのだ」
「いや、話してくれてありがとう。まさかニールセンが本当の第三皇子とは思わなかったけど。ということは、
「つまりそうなる」
そうか、魔王アントニンは連合国こそ滅ぼしたが――ニールセンは生かしたのか。まるで隠し子みたいな扱いだな。
なぜニールセンだけが弾き出され、俺と入れ替わったのか。そこが最大の謎だ。こればかりは本人に聞くしかないかも。
考え込んでいると、スコルが手を挙げた。
「あ、あのぅ……」
「どうした、スコル」
「ラスティさんは、これからどうするつもりですか?」
「島の人口は増やしたいな。今日のような奴隷になっている人とか困っている人を迎えたいと思っているよ」
「素晴らしいです! エルフはよく奴隷にされているので……困っているエルフ族も助けて下さい」
そういえば、あの女性の中にエルフもいたな。エルフ族は、スコルのような美人で可愛いエルフが多いし、狙われやすいんだろうな。
「どこまで出来るか分からないけど、でも任せてくれ」
「はい、わたしも全力でサポートしますので!」
となると、まずはドヴォルザーク帝国の視察だが。
「ストレルカ、君について来て欲しい」
「ドヴォルザーク帝国ですか?」
「そうだ。ストレルカは帝領伯のご令嬢だから、いざとなれば頼りたい。ほら、俺はもう皇子じゃないからさ」
「わ、わたくしを頼ってくれてるのですね!?」
「そうだ」
「……う、嬉しい」
「ん?」
声が小さくて聞き取れなかった。
「な、なんでもありませんわ……! それより、わたくしなんかで良ければ、ラスティ様に協力しますよ。オケアノスも従うと言ってくれていますから」
「おぉ、ありがとう! オケアノスもね」
「……もぉ、ラスティ様の笑顔は素敵で、まぶしいです」
「ん?」
やっぱり、ストレルカは挙動がヘンだな。でも、上機嫌だし……いっか!
方針が固まりつつある。
となれば、さっそく向かうか。
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