大神官の宣告

 ユーモレスク宮殿へ戻ると、大神官アルミダが出入口に立っていた。


「アルミダ様、どうしたのですか?」


 スコルが首を傾げて聞く。

 俺も正直、なぜ大神官がそこに立っているか疑問だった。こちらを静かに見つめ、これ以上は踏み入るなと言いたげな表情をしていた。


 怖いな。


「これより先は通せません。スコル、そして皆様方……申し訳ないのですが、ボロディンから去って戴きたい」


 突然の宣告に、俺たちは動揺する。まてまて、いきなり出て行け……? 今までの歓迎ムードはどこいった。俺は居ても立ってもいられず、聞き返す。


「理由を教えてくれ、大神官様。俺たちは成果こそ得たけど、まだ観光すらしてないぞ。ていうか、悪い事なんて何一つしてないない」


「先ほど、ある報告が上がったのです。その報告書によると、上級騎士のクロードに重症を負わせましたね」



 なぜか俺がにらまれる。

 違う、それはヤツの自業自得だ。


 クロードのいた種。周囲のエルフを怒らせ、自爆した結果だ。なぜ俺の所為せいになるんだよ。いくらなんでも理不尽だ。そんな憤りを感じていると、スコルが庇ってくれる。



「それはおかしいですよ、アルミダ様! ラスティさんは何もしていません。わたしをかばってくれたんです。手だって一度も出さなかったですし、誰も傷つけていません!」


「残念ながら、ラスティ様が一方的に彼を痛めつけたと耳にしております。これはエルフに対する一方的な攻撃。仮にも貴方はドヴォルザーク帝国の第三皇子。これが事実なら、戦争ですよ」



 ……なんだ、何を言っているんだ、この大神官。ふざけている! 近くにいたハヴァマールとストレルカも抗議する。



「兄上は何もしとらんぞ!」

「そうです。ラスティ様は何も悪くありません!」



 しかしその声さえも無視された。

 あの大神官、なぜ急にこんな態度を。最初に会った時は普通だったし、こんな豹変するような感じじゃなかったのにな。



「残念ですが、状況が覆る事はありません。もし、立ち退かないのであれば……この『強制テレポート』のアイテム『グローア』を発動します」



 あのアイテム……親父が俺に使ったものとソックリだ。同じものをなぜ……?



「大神官、ひとつだけ教えてくれ」

「分かりました。ひとつだけですよ」


「その強制テレポートのアイテム『グローア』は、このエルフの国にしかないのか?」

「そうです。これは、私自らが生成したアイテム。この私にしか作れません」


「……そうか。分かった。俺たちは国を出て行く。それでいいだろ」

「ええ。素直に帰られるのであれば、こちらも何も言いません」



 俺は、きびすを返す。

 ユーモレスク宮殿にはもう来れないだろうな。もう少し色々回りたかったけど、いろいろ判明したし、テオドールとは契約も結べたし、十分な収穫だ。


 島へ戻ろう。



「スコル、少し早いが……帰ろう」

「ラスティさん。でも……」

「いいんだ。テオドールが来てくれるし、彼を説得して連れて帰ろう」

「……はい、分かりました」



 ◆



 再び街へ戻る。

 辺りはすっかり夜。


 またテオドールの屋敷を訪ねる事になるとはな。たった数時間でこれほど変化があるとは、少し疲れるな。



「――それにしてもあの大神官、なぜあんな横暴を」

「そうだな、ストレルカ。余もキレかけた」



 ストレルカとハヴァマールが俺の代わりに怒ってくれていた。理由は定かではないが、今は島に戻るべきだ。アルフレッドやエドゥも心配だし。



 テオドールの屋敷につくと、彼が丁度、店から姿を現した。



「「――あ」」



 お互いを見合い、指をさす。



「テオドール、丁度良い所に!」

「ラスティ様……どうして、戻って来たのです?」


「緊急で悪いんだが、今からボロディンを立つ。テオドール、一緒に来てくれ」

「――へ。えええッ!?」



 さすがのテオドールも驚きを隠せないでいた。そりゃそうだよねぇ。

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