帝国の計画

 ハヴァマールやテオドールには、いろいろ聞きたいことはあるけど、今は過去の出来事は置いておき――交渉だ。



「テオドールさん、力になって欲しいんです」

「突然ですね。まずは理由を話して欲しいかな」


 俺は、ドヴォルザーク帝国を追放された経緯、島を所有している事、農業の知恵を得る為にボロディンへやって来たなど詳しく説明した。

 うんうんとテオドールは、きちんと俺の言葉に耳を傾けてくれていた。


「――というわけなんですよ」


「なるほど、それは大変興味深いお話です! あの堅物のルドミラとエドゥアルドを動かす程の力をラスティ様はお持ちとは……そもそも、オーディンの子。なぜこのような引き合わせが起きているのか……奇跡が偶然か、運命か」



 テンション高いな、この人。

 だけど、こちらに興味を示してくれている。これは手応えありそうだな。スコルも俺と一緒にお願いしてくれた。


「テオドール様、どうか……ラスティさんにお力添えを出来ませんでしょうか」

「ええ、スコル様が同行しているのも気になっていたのです。……そうか、これはドヴォルザーク帝国の……」



 何かに気づいた様子のテオドールは、あごに手を当てて遠い目をしていた。糸目だけどなっ。しかし、一体何に気づいたんだか。


「どうかな、テオドールさん」

「分かりました。この私自身もドヴォルザーク帝国には頭を悩ませていた所なのです」

「そうなの?」

「ええ。ラスティ様の父上――アントニン皇帝陛下は『世界聖書』の力を使い、世界の全てを手に入れるつもりなのですよ」


「世界の全て……」


「そうなのです。あの聖書さえあれば、強大な力を得られるのです。ですが、力を発揮するには、グラズノフ共和国、連合国ニールセン、そしてエルフの国ボロディンを完全崩壊・・・・させねばなりません。今でこそ、かなり恐慌状態ですけどね。弱体化をえて狙った可能性も否定できません」



 親父のヤツ、そんな魔王のような計画を企てていたのか。恐ろしい……なんて、恐ろしい。どっちが魔王だよ!


 そうか、最初からそのつもりで俺を追放したかもしれない。だとすれば、俺は利用されていただけ……? 息子とも思われておらず、ただの道具だったと……。


 思わず眩暈めまいがした。



「ラスティさん!?」

「兄上!」

「ラスティ様!!」



「いや、大丈夫だ。事実を聞いて頭がクラッと来ただけだ。……もう帝国には失望しかない。俺には帰るべき国なんてなかったんだ。けど、幸いにも島がある。それが唯一の救いだ」



 そうだ、ハヴァマールはあの島を俺にくれた。本当の家族はハヴァマールだけ。世界でただひとりの妹。俺を見捨てなかった。




「話を戻しましょう。私が協力するか、しないか――ですね」

「お、おう」


「協力しましょう。その島とやらが気になりますし、何よりもラスティ様に興味がある。特にあの大賢者であるエドゥがどうして味方するのか……理由を聞いてみたいのです」


「ありがとうございます、テオドールさん。これで農業が進められます」


「ラスティ様。今後、私の事は呼び捨てで構いません。それに、口調も普段で問題ありませんので」


「ん? そうか。じゃあ、よろしく!」

「よろしくお願いします」



 固く握手を交わし、交渉成立。ついでに色んな情報も得てしまった。……なんだか、心の整理が追い付かないや。



「今日は宮殿に帰るよ」

「了解しました。島へ戻る時に声を掛けて下さい。私も同行しますので」

「本当かい!? それが一番助かるな。でも店とかいいの?」

「大丈夫です。私は多くの従業員を抱えており、この店には店長もいますからね」


 それなら大丈夫か。

 ていうか、本人が島に来てくれるとはな。これでいよいよ伝説が集まるわけか。


 話が終わり、俺は皆を連れて宮殿へ向かった。

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